韓国の歌手ソン・シギョンと『孤独のグルメ』の松重豊が出演する日韓グルメ番組『隣の国のグルメイト』シーズン2第4話で、ソンが松重を案内したソウル下町のスンデクッの店「マッチョウン・スンデクッ」は、「味」「人」「雰囲気」が高次元で並び立つ名店だった。今回は、その「雰囲気」について書く。
■Netflix『隣の国のグルメイト』で紹介されたスンデクッの店、趣のある外観
スンデクッの店「マッチョウン・スンデクッ」はソウルの東部、広津区(クァンジング)の紫陽洞(チャヤンドン)にある。筆者は個性的な飲食店の多い建大入口(コンデイック)駅こそ利用したことがあるが、その先の漢江寄りの紫陽駅では初めて降りた。
地下鉄7号線高架下のヌンドン路や漢江に沿った江辺北路の周りはなかなかの賑わいだが、一歩路地に入ると下町感があり、散歩が楽しい。

目当ての「マッチョウン・スンデクッ」は信号のない小さな交差点の角にあった。正面の看板は文字が剥げてマッ(味)の一文字しか残っていない。店先には廃業したカフェから譲り受けたものだろうか、パラソル付き簡易テーブルとイスがしつらえてある。テーブルの脇には観葉植物の鉢がいくつも置かれ、あじさいやバラが咲いている。東京の下町にも通じる風情だ。
出入口脇の外壁をよく見ると、「パッカルククス(小豆スープの麺)」と書かれたシールを剥がした跡がある。この店は1990年代半ばの創業だが、それ以前は別の店だったのだろう。この頓着しないところがよい。
1980年代から1990年代の韓国ではこういう店はありふれた存在だったが、2000年以降、こぎれいに改装する店が増え、ソウルでは貴重な存在である。このたたずまいの魅力は、筆者が韓国各地で出合ったローカルな名店に匹敵する。

