韓国ドラマには「裕福な家庭の高慢な母親」というキャラクターがよく出てくる。完全な嫌われ役であり、『涙の女王』と『おつかれさま』にも登場してくる。彼女たちは、婿や息子の婚約者の実家を露骨に見下していく。それは、差別以外のなにものでもない。本来、娘や息子の幸せを考えれば、母親同士が仲良くしなければならないのに、まるで逆の行動に出ている。(以下、一部ネタバレを含みます)
■『涙の女王』『おつかれさま』にも登場した「裕福な家庭の高慢な母親」
『涙の女王』の主人公は、財閥クイーンズグループのデパート部門トップのホン・ヘイン(キム・ジウォン)と同グループの法務部エースであるペク・ヒョヌ(キム・スヒョン)。この2人の母親は好対照であった。
ペク・ヒョヌの場合、父親ペク・ドゥグァン(チョン・ベス)は龍頭里(ヨンドゥリ)という地方の里長をしており、母親チョン・ボンエ(ファン・ヨンヒ)は本当に心優しい。財閥家の婿になった息子をいつも心配している。
逆に、ホン・ヘインの母親キム・ソンファ(ナ・ヨンヒ)は、意地が悪い。娘のヘインとも不仲であり、いつも態度が高慢だ。なによりもひどいのは、ヒョヌの母親ボンエをあからさまに差別することだ。
ボンエが精一杯の気遣いを見せているのに、ソンファは視線も合わさず不機嫌な態度を取る。その冷酷な対応はゾッとするほどだ。いくら財閥とはいえ、婿の家をそれほど罵れるのか。見ていて単純にそう思ってしまう。
『おつかれさま』にも、似たような女性がいた。それが、ドラマの後半でIUが演じたクムミョンの婚約者ヨンボム(イ・ジュニョン)の母親(演じた女優カン・ミョンジュさんは2025年2月に亡くなられている)だ。夫は議員である。
クムミョンは最難関のソウル大学出身であり、とても聡明だ。嫁として迎えるのに申し分ない女性なのだが、ヨンボムの母親は嫌悪感を示す。しまいには、クムミョンの実家の貧しさを蔑んでいる。痛烈な言葉にクムミョンはとても傷ついた。
さらに、ヨンボムの母親は、クムミョンの母親エスン(ムン・ソリ)にも結婚の中止を働き掛けている。結局、耐え切れなくなったクムミョンは、結婚を断念せざるを得なくなった。
今回、取り上げた2人の母親。裕福な家がそうでない家を見下すことで、韓国社会に今も残る名門一家の特権意識を表わしていたが、その結末には明らかな違いがあった。
『涙の女王』では、企業を乗っとられて没落した財閥家の人たちが、あれほど馬鹿にしていたヒョヌの実家に転がり込むという展開になり、ソンファも惨めさを味わった。優越感にひたっていた人たちが屈服する人間関係を見せてくれたことで、視聴者も留飲を下げたことだろう。