だが、韓流ブームとの相性はよくなかったようだ。本人曰く、チェ・ジウに「先輩、絶対出るべきです!」といわれて出演を決めた空港を舞台にしたスパイアクション『エアシティ』(2007年)も、『コーヒープリンス1号店』の演出家×脚本家の再タッグで注目されていた『トリプル』(2009年)もふるわず。『友へ チング』で知られるクァク・キョンテク監督の大型スパイアクション映画『タイフーン/TYPHOON』(2005年)も、事前の話題性に比べると不発に終わっている。

 ドラマ『美しき日々』が日本でも大変な人気となったイ・ビョンホンが、韓流四天王と呼ばれ、一大ブームを巻き起こす存在だったこととは対照的だ。

 その“暗黒期”から見事に脱却したのが、悪役や二番手を引き受けるようになった2010年以降だ。

 男ざかりの金持ち男に扮した『ハウスメイド』(2010年)では、妊娠中の妻を横目にメイド(チョン・ドヨン)に手を出す、ゲスな主人役の見事なこと! そして、日本でも沼落ち人続出した『新しき世界』(2012年)だ。組織への潜入捜査をする警察官。成り上がりのギャング役で“動”の魅力を発揮するファン・ジョンミンと対極に位置する静かなる男。感情を抑えながら見せる苦悩姿はむしろセクシーさ全開。ひらりとひるがえるスーツの裾の動きすら美しかった。

 そのセクシーさに”えもいわれぬ非情さ、残酷さ”が加わったのが、歴史上の悪役を、狼をイメージして演じた『観相師 -かんそうし-』(2013年)だろう。悪の魅力で開花したイ・ジョンジェは、その後解き放たれたように、自由自在に、さまざまなジャンルの作品で活躍している。

 そうして、ご存知の『イカゲーム』の成功によってフィールドが世界へと広がった。初監督作『ハント』(2022年)が世界で披露されるのも、もちろん作品力もあるが、その知名度も手伝っただろう。『スター・ウォーズ』シリーズへの出演も大きな成果だ。

 ついに『イカゲーム』が完結した2025年。まだ正式発表されていないが、どうやら次回作は『補佐官』シリーズ以来の放送局のドラマ主演らしい。どんな姿で楽しませてくれるのか、いまから期待はつきない。

●配信情報

Netflixシリーズ『イカゲーム』シーズン1〜3独占配信中

演出・脚本:ファン・ドンヒョク『トガニ 幼き瞳の告発』(映画)

出演:イ・ジョンジェ、イ・ビョンホン、イム・シワンカン・ハヌル、 ウィ・ハジュンパク・ギュヨンパク・ソンフンヤン・ドングンカン・エシム、イ・デヴィッド、ノ・ジェウォン、チョ・ユリパク・ヒスン(特別出演)