Netflix配信アニメ映画『K-POPガールズ!デーモンハンターズ』のオリジナルサウンドトラック(OST)『Golden』が、英オフィシャルシングルチャートと米ビルボードHOT100 でダブル1位を記録した。これはBTSBLACKPINKでも成し遂げられなかった快挙だ。

『K-POPガールズ!デーモンハンターズ』自体もNetflix歴代興行映画第2位にランクアップし、この勢いであれば歴代1位の『レッド・ノーティス』を追い越すことが予想されている。まさにアニメ映画と音楽が両方とも世界を熱狂させているという類まれな現象が起きているのだ。(記事全2回のうち前編)

■主人公は「ハチャメチャ」!『K-POPガールズ!デーモンハンターズ』監督は「韓国文化を舞台にした映画を作りたかった」

 本作のマギー・カン監督は『アニメーションマガジン』(6月13日付、電子版)に「韓国文化を舞台にした映画を作りたかった」と明かし、主人公の女性について「面白くて、おどけていて、間抜けで、ハチャメチャでありながらクールで、向上心があってセクシー」と答えている。

『Golden』は劇中に登場する仮想の3人組K-POPガールズグループ「Huntr/x(ハントリックス)」が歌っている曲だ。少女時代aespaらを輩出したSMエンターテインメントで10年に及ぶ練習生を経験した作曲家のEJAE(キム・ウンジェ)、歌手のオードリー・ヌナ、同レイ・アミが歌唱を担当した。

 この3人はいずれも韓国系米国人。マギー監督も韓国生まれで5歳の時にカナダに移民し、学生時代にアニメを学んだ。いわば、“ディアスポラ”たちの共作ともいえる。

■“市場が狭い”韓国文化をあえて前面に打ち出した理由、韓国エンタメが切り開いた“グローカル”という文化現象

「韓国は市場が狭いから海外に行くしかない」とはよく聞くフレーズだ。実際、BTSが2020年に発表した『Dynamite』は全編英語の歌詞であり、ディスコポップ調の明るく軽快でシンプルな楽曲は明らかに欧米の市場を狙って作られている。

 韓国色を“脱臭”した同曲はK-POPグループとして初めて米ビルボードHOT100 で1位を獲得し、世界的なヒットとなった。だが、韓国各地の方言を取り入れた『八道江山(Paldogangsan)』や韓国のローカルな風景が旅情を誘う『Spring Day』などを発表してきたBTSにとって、全米シングルチャート1位を記録した『Dynamite』や『Butter』はむしろ“例外”的な作品だったのかもしれない(コロナ禍という事情があったにせよ)。

 これに対し、同じく米英チャートを制した『Golden』は英語と韓国語歌詞が混在している。なぜローカルな言語である韓国語を織り込む必要があったのだろうか。その問いを考える上で参照できるのが文化人類学者アパデュライによって提唱された「エスノスケープ」という概念だ(※1)。これは民族や人々の移動・想像力のネットワークを指し物理的な移動のみならずメディアを通じた想像的移動をも含む。

(注※1)Arjun Appadurai, Modernity at Large: Cultural Dimensions of Globalization (Minneapolis: University of Minnesota Press, 1996)