■ローカル色を“脱臭”した『Dynamite』、ローカルを取り入れた『Golden』 

 実際、『K-POPガールズ!デーモンハンターズ』に登場するソウルの描写は、世界中の観客にとって「まだ行ったことがないけど、すでに知っているような都市景観」として受容された。視聴者はスクリーンを介してソウルを疑似経験し観光や聖地巡礼という「実際の移動」を促す契機となる。

 本作はK-POPアイドルと悪魔退治というファンタジー的設定を組み合わせつつ、ソウルの実在する観光名所、例えば明洞の繁華街、南山タワー、漢江の鉄橋や北村の韓屋村、さらには景福宮東大門といった歴史的建造物などを舞台として活写している。

 このような都市空間の提示は、観光的な「ローカルな場」が「グローバルな視聴空間」に接続される契機を与えており、歌詞に含まれた韓国語もグローバルな関心を呼び起こす要素となっている。

 8月初旬に韓国を旅行した際、筆者も南山タワー(現名称:Nソウルタワー)に登ってみた。息を切らしながら急こう配の階段を上がり切ると頂上の広場には海外からの観光客が大勢集まっていた。『K-POPガールズ!デーモンハンターズ』が配信されてからインバウンドが目立つようになり、今では7割から8割近くが外国人観光客と報じられている。

 海外のファンにとって南山タワーは「キャラクターと同じ空間を追体験する聖地」だ。K-POPファンダムはすでにライブ会場や撮影地への巡礼文化を築いているが、この映画はそれをアニメーションという新しいメディア領域に拡張し、文化と場所の消費体験を結びつける新たな価値を生み出している。(後編に続く)

急こう配の階段を上って南山タワーがある頂上の広場へ。観光客の歓声がここまで聞こえてくる(撮影・筆者)

●配信情報

Netflix映画『K-POPガールズ!デーモンハンターズ』独占配信中

[2025年/アメリカ/99分]原作:マギー・カン 監督:マギー・カン、クリス・アペルハンス 脚本:ダニヤ・ヒメネス、ハンナ・マクメチャン、マギー・カン、クリス・アペルハンス 制作:ソニー・ピクチャーズ・アニメーション

出演(声優):アーデン・チョー、アン・ヒョソプ、ケン・チョン、イ・ビョンホン、ダニエル・デイ・キム、メイ・ホン、ユ・ジヨン、キム・ユンジン、ジョエル・キム・ブースター、ライザ・コーシー