韓国時代劇でレジェンド級と評価される過去の作品を見ていると、身分制度の過酷な状況を受け入れる前提で物語が作られている場合が多い。そうした作品と比べると、コロナ禍以降に作られた傑作時代劇……たとえば『赤い袖先』『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』『オク氏夫人伝』は身分制度という、朝鮮王朝が死守した差別的な仕組みに挑戦する内容になっている。(以下、一部ネタバレを含みます)
■三大傑作時代劇『赤い袖先』『恋人』『オク氏夫人伝』の共通点とは?
『赤い袖先』は国王と宮女の究極的な愛を描いた名作。主人公の2人には明確な身分の違いがある。イ・セヨンが演じたソン・ドギムは王宮で奉職する宮女であり、ジュノ(2PM)が扮したイ・サンに絶対的に服従せざるを得ない。しかし、ドラマの中のソン・ドギムは、従属された身分に決して満足していない。むしろ、自分の限界を超えようと努力している。
18世紀後半の王宮には700人ほどの宮女がいたと思われるが、その中でもソン・ドギムの生き方は革命的だった。なぜならば、イ・サンから承恩(国王や世子と宮女が一夜を共にすること)を求められても二度にわたって断っているからだ。それは、死も覚悟しなければならない拒絶であった。
自立性を持った女性を正面から描いていた『赤い袖先』。ソン・ドギムだけでなく、彼女の同僚たちの生活感も同時に描きながら、身分制度の垣根を越えていこうとする意欲を示していた。その中で、意志の強さを如実に見せたイ・セヨンの表現力が見事だった。
●作品情報
『赤い袖先』
[2021年/全17話]演出:チョン・ジイン、ソン・ヨナ 脚本:チョン・ヘリ
出演:ジュノ(2PM)、イ・セヨン、カン・フン、イ・ドクファ
(C)2021MBC
『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』のヒロインは両班(ヤンバン)令嬢のユ・ギルチェ(アン・ウンジン)。身分制度の中で最高の待遇を得られる立場だった。実際、ドラマの序盤ではわがままなユ・ギルチェが描かれており、その奔放さにイ・ジャンヒョン(ナムグン・ミン)が惹かれていくという展開になっていた。
しかし、清国の侵攻を受けて朝鮮王朝が戦乱に巻き込まれると、ユ・ギルチェも優雅な暮らしを捨てて、悲惨な戦争の渦中に放り出される。彼女の境遇は完全に変わり、結局は人質に間違えられて清国の首都にまで連れていかれる。そこは地獄にも匹敵するような場所。そこでユ・ギルチェは底辺を這いずり回りながら、生存をかけて逞しく生き抜いていく。
かつての令嬢の優雅さはみじんもなくなっていた。そこに『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』の凄みがあり、身分制度の上位にいた女性が奈落の底に落ちる様子をありのままに見せていた。人はどんなに良い時代があっても身分制度が何も守ってくれない、ということもドラマが辛辣に指摘していた。
●作品情報
『恋人〜あの日聞いた花の咲く音〜』
[2023年/全21話]演出:キム・ソンヨン、イ・ハンジュン、チョン・スジン 脚本:ファン・ジニョン
出演:ナムグン・ミン、アン・ウンジン、イ・ハクジュ、イ・ダイン
(C)2023MBC
