Netflixで配信中の『エスクワイア: 弁護士を夢見る弁護士たち』の人気が高い。とにかく物語の進め方が巧みだ。法律事務所ユルリムの訴訟チーム長のユン・ソクフン(イ・ジヌク)と同チームの新人弁護士カン・ヒョミン(チョン・チェヨン)……この主人公2人のキャラ設定と内面的な人間性の描写が優れており、見る度に引き込まれる。
■Netflix『エスクワイア: 弁護士を夢見る弁護士たち』の巧みな物語構成、脚本家の力量に感服
『エスクワイア』は、何層にも重なった物語構成になっている。主人公2人の変化していく関係性、1話完結方式で繰り広げられる興味深い訴訟案件、ユルリムの内部で起きている人事問題……こうした要素が複合的に絡み合いながら物語は展開されていく。
一つのドラマを見ていながら、まるで複数の作品に囲まれているような感覚を味わえる。この広がりこそが、今の韓国ドラマの大きな特徴になっている。『エスクワイア : 弁護士を夢見る弁護士たち』に関しても、「大きな物語」を作れるパク・ミヒョン脚本家の力量に感服する。

こうしたスケールが多面的なドラマを見ていて思うのは、従来の脚本家たちがこれまで積み上げてきた努力と実績がいかに実を結んできたか、ということ。ここから韓国ドラマの脚本家たちの成長物語を見ていこう。
20年以上も前、韓国ドラマをずっと取材してきて特に興味を持ったのが「脚本の作られ方」であった。やはり、ドラマや映画は「脚本が命」と言えるわけで、当時の脚本家の現状についてとても知りたかった。そこでわかったのは、韓国の脚本家の世界は徒弟制度がベースになっていることだった。
実績のある脚本家に弟子入りした見習い脚本家が、師匠の下に付いて修業を積みながら一人前になる機会を待つ、というのが現実だった。見習い期間は5年以上。それくらいの経験を経て、ようやく脚本を1本書かせてもらえるかどうか、という試練があった。
その間は報酬がない。経済性を優先させなければならない場合が多い男性は修業期間に耐えられない。よって、専任の仕事を持っていなかった女性が脚本家の見習いに転じるというケースが多かった。
当時、シナリオライター養成講座があると受講するのは女性ばかり、という話もよく聞いていた。「男性は特に演出をやりたがる」という現実もあった。結果的に、韓国ドラマの脚本の世界は女性が圧倒的な多数になった。
韓国の文芸における伝統も大きく影響している。近世まで朝鮮半島は完全に「文の社会」であった。王朝を仕切っていたのも文官たちであり、文章に巧みでないと出世できない仕組みになっていた。
それゆえ、「文を尊ぶ国」の伝統が息づき、それは近代から現代になっても変わらなかった。なんといっても、詩集がベストセラーになる国なのである。詩を愛する人がとても多いことが文芸の発展を促した。
その一方で、大衆小説や私小説は盛んにならなかった。「人間はどう生きるべきか」というテーマを持った純文学こそが、創作の主流だった。
今は韓国の女性作家の小説が世界的に人気を博している。昨年のノーベル文学賞をハン・ガン作家が獲得したことも象徴的な出来事になっている。