Netflixを席巻している『暴君のシェフ』第10話で大きなターニングポイントがあった。それは、国王イ・ホン(イ・チェミン)の生母であった廃妃ヨン氏の母親が登場してきたことだ。

 その人は、府夫人(プブイン)シム氏(イェ・スジョン)であった。この府夫人とは、『暴君のシェフ』では王妃の母親に付けられた品階だ。(以下、一部ネタバレを含みます)

■『暴君のシェフ』王の叔父が企む陰謀、その鍵を握る女性シム氏のモデルは?

 政治的な陰謀に備えてシム氏を抱えていたのが、イ・ホンの叔父であるチェサン大君(チェ・グィファ)である。

 なぜ、彼はシム氏を拘束していたのか。それは、イ・ホンに代わって国王の座をつかむ上で切り札にしたいと考えていたからだろう。

 そういう点でも、シム氏の存在は、『暴君のシェフ』の終盤においてとても重要な意味を持ってくる。しかも、シム氏は、娘であった廃妃ヨン氏が死罪になった時に身に付けていた「血のついた衣」を持っている。それを悪用しようというのがチェサン大君の魂胆だ。

 予断を許さぬ局面を迎えてきた『暴君のシェフ』で鍵を握っているシム氏。実は史実において明確なモデルがいる。それが燕山君(ヨンサングン/イ・ホンのモデル)の生母であった廃妃ユン氏の母親の申(シン)氏だ。このあたりのことを詳しく見てみよう。

 ユン氏は1474年に9代王・成宗(ソンジョン)の三番目の妻となり、1476年には成宗の長男を産んでいる。それが後の燕山君である。成宗の長男を産んで、ユン氏は王妃として立場が盤石なはずなのに、あまりにも嫉妬深い性格だった。

 それゆえ、成宗の側室であった厳(オム)氏と鄭(チョン)氏を大変嫌っており、この2人を呪詛(じゅそ)しようとした。その時、ユン氏の企みを阻止すべきだったのに、母親の申氏は逆に呪詛という大罪に協力してしまった。

 結局、ユン氏と申氏の悪事は発覚してしまい、ユン氏の部屋は徹底的に調べられた。その際、決定的な証拠として毒薬と呪術的な本が出てきた。これによってユン氏は処罰されて、成宗からの寵愛を失ってしまった。

 さらには成宗の顔をひっかくという事件も起こしており、ユン氏は廃妃になった後に1482年に死罪に処された。