『孤独のグルメ』の松重豊と人気歌手ソン・シギョンが日韓を食べ歩きするNetflixバラエティ『隣の国のグルメイト』シーズン4の6話は、過去最高と言ってもいいくらい二人が「旨い」を連発する回だった。
釜山を訪れた二人が、休憩中のタクシー運転手さん数人にお気に入りの店を聞き、そこにソン・シギョンが直接電話で取材交渉してタクシーで突撃するというおもしろい趣向。向かったのは釜山郊外の釣具店が経営する太刀魚(カルチ)料理の専門店だった。
■韓国のタクシー運転手さんの御用達といえば?
韓国でタクシー運転手さんがすすめる店と聞いて思い出したのは、俗にキサシクタン(技士食堂)と呼ばれる大衆食堂だ。好きなおかずが選べるビュッフェ形式でタクシー運転手さんの利用が多いが、一般人でも利用できる。
米国アカデミー賞受賞作品『パラサイト 半地下の家族』で、ソン・ガンホ扮する貧困一家の主が富豪宅に寄生を始め、外食する余裕ができたとき、嬉々としておかずを選んでいた店、あれがキサシクタンだ。
■韓国の多彩な太刀魚料理
『隣の国のグルメイト』でソン・シギョンと松重豊が行ったのは、キサシクタンではなく、釣り好きの運転手さん行きつけの釣具店に併設された太刀魚料理の専門店だった。
ソンと松重が旨い旨いと言いながら食べたのは、カルチクイ(塩焼き)とカルチチョリム(辛煮)だった。
塩焼きにはある隠し味が施されていて、松重はそれをみごとに言い当てていた。太刀魚は塩味だけでもじゅうぶん旨味があるのだが、意外な工夫だった。
鮮度が大切な太刀魚は、かつて日本ではいつでもどこでも食べられる魚ではなく、関東の内陸で生まれ育った筆者は大人になるまで鮮魚店で太刀魚を見たことすらなかった。
太刀魚初体験は、じつは1990年代前半の韓国。ソウルに滞在していた仕事関係の先輩が、「韓国は日本とだいぶ食習慣が違うが、鯖や秋刀魚、太刀魚の塩焼きは日本のそれに近い感じで食べられた」と言っていたので、辛い物に飽きたとき、世運商街沿いの大衆食堂で切り身を焼いたもの食べたことを今でも覚えている。
1990年代の後半にはソウル南大門市場を取材したとき、太刀魚横丁でカルチチョリムという切り身を辛く煮付けたものを食べた。当時は煮ダレがとても辛く感じられ、「これじゃ魚の風味も台無しだな」と思ったが、何度か食べるうちにダイコンに沁みた太刀魚の旨味のとりこになっていった。
その後、済州で旬の太刀魚の刺身も食べたが、塩焼きやカルチチョリムのほうが性に合った。