「月刊ホン・サンス」と銘打ち、2024年11月から近作映画5本が日本で順次公開されているホン・サンス監督。彼の作品の男性主人公は監督の分身のように見えることが多い。ベルリン国際映画祭で5度も受賞するなど、ヨーロッパや日本をはじめ、海外でも評価が高いホン・サンスの監督デビュー30周年を記念して、歴代の主演俳優を振り返ってみよう。
■ホン・サンス監督作品、歴代の男性主人公を演じた名優たち
ホン・サンス監督作品の出演俳優といえば、ここ数年は、『冬のソナタ』のクォン・ヘヒョや、『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』でキム・ジョンイルに扮したキ・ジュボンの主演が目立つ。
それ以前は、『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』のイ・ソンギュン、ジャスティス -検法男女-』のチョン・ジェヨン、『悪霊狩猟団: カウンターズ』のユ・ジュンサンなど、個性派の名優が監督の分身らしき人物を演じていた。順に紹介していこう。
■クォン・ヘヒョ(1965年生まれ)
1990年代はそのアクの強い目鼻立ちから、悪役やエキセントリックな役が目立ったが、アジア全域でヒットした2002年のドラマ『冬のソナタ』でペ・ヨンジュン扮する主人公の上司キム次長を、2005年の大ヒットドラマ『私の名前はキム・サムスン』では、キム・ソナ扮する主人公の先輩を演じ、知名度を飛躍的に上げた。
以降、コミカルで人情味、人間味のある役が増える。最近では名バイプレイヤーとして『シュルプ』『気象庁の人々』『私たちの映画』など、多数のドラマに出演している。
2020年の映画『新 感染半島ファイナル・ステージ』では、ゾンビ禍でも希望を捨てず家族を守ろうとする老人を、『D.P. -脱走兵追跡官-』シーズン2ではチョン・ヘイン扮する主人公を圧迫し続けた暴力的な父親を演じた。演技の守備範囲の広さには定評がある。
ホン・サンス監督作品では、『3人のアンヌ』『あなた自身とあなたのこと』『夜の浜辺で一人』『それから』『川沿いのホテル』『逃げた女』くらいまでは、まだ煩悩を捨てきれない男の役が多かった。しかし、最近の『自然は君に何を語るのか』『小川のほとりで』『旅人の必需品』『WALK UP』では、老巧と諦念、憂いを感じさせながらも情緒が安定した役がほとんどだ。筆者は昨年、三清洞のバーで偶然、彼と同席する機会に恵まれたが、最近の役柄と重なる温和な人格者だった。
■キ・ジュボン(1955年生まれ)
ファン・ジョンミン主演映画『工作 黒金星と呼ばれた男』のキム・ジョンイル総書記役、ユ・オソン主演『チング 永遠の絆』『友へ チング』の寡黙だが凄みのあるヤクザ役、イ・ジョンジェ主演『純愛譜』の渋い刑事役など、わずかな出演時間で鋭利な刃物のような存在感を示すベテラン俳優だ。
ホン・サンス作品デビューは2008年の『アバンチュールはパリで』と早く、以来、『ハハハ』(2010年)、『次の朝は他人』(2011年)、『ヘウォンの恋愛日記』(2013年)、『自由が丘で』(2014年)、『正しい日 間違えた日』(2015年)、『草の葉』(2018年)などにチョイ役ながらコンスタンスに出演している。
2019年の『川沿いのホテル』ではクォン・ヘヒョとユ・ジュンサン扮する兄弟の父親役で初主演。2月14日から日本で公開される『私たちの一日』では、キム・ミニとともに主役を務めた。医者から止められている酒をうっかり飲んでしまう人間味のある詩人の役は、還暦を過ぎて角が取れ、円熟を極めつつあるホン・サンス監督のまさに分身といえるだろう。
■チョン・ジェヨン(1970年生まれ)
スクリーンデビューが1990年。若い頃に『グリーン・フィッシュ』のハン・ソッキュ、『クワイエット・ファミリー』のチェ・ミンシクやソン・ガンホ、『シルミド/SILMIDO』のアン・ソンギやソル・ギョングなど大物と共演し、2005年には800万人以上を動員した『トンマッコルへようこそ』で主役を張っているので、大ベテランのように見えるが、まだ50代半ばである。
ホン・サンス作品デビューは2013年、チョン・ユミ主演の『ソニはご機嫌ななめ』。フィクション色の強い俳優なのでホン・サンスのノンフィクションぽい作風に合うとは思えなかったが、本作での鬱々とした映画監督役も、次作の『正しい日 間違えた日』での妻帯者であることを隠して画家(キム・ミニ)に近づく映画監督役も意外なほどハマっていた。
2017年の『夜の浜辺でひとり』のカフェの冴えないマスター役も印象に残っていて、筆者は江原道の江陵に実在するこの店を訪れたこともある。ホン・サンス監督とキム・ミニの関係が明らかになったのはちょうどこの頃だ。