今もっとも話題のNetflix韓国時代劇『スキャンダル』。ソン・イェジンが演じるチョ氏夫人は高官の妻。この美しき女性を慕うのがいとこのチョ・ウォン(チ・チャンウク)である。彼は風流人であり、チョ氏夫人が持ち掛けた愛欲ゲームの賭けに応じていく。その賭けの標的になったのが、良家御曹司の夫を亡くしたばかりの若い後家アン・ヒヨン(ナナ)だった。(以下、一部ネタバレを含みます)
■時代劇『スキャンダル』で描かれる男尊女卑の時代、亡き夫の後を追う妻は「烈女」と呼ばれて称賛されていた
注目作『スキャンダル』の時代背景を見てみよう。
このドラマの舞台は18世紀後半の朝鮮王朝。22代王・正祖(チョンジョ)が統治する時代であった。
チョ氏夫人の夫であるユ大監(イ・ゴン)は、正祖から恵慶宮(ヘギョングン)の還暦祝いの慶事の仕切りをまかされていた。恵慶宮は正祖の実母であり、1762年に米びつに閉じ込められて餓死した思悼世子(サドセジャ)の妻だった。
この恵慶宮は1735年に生まれている。その還暦は1795年である。それによって、『スキャンダル』が描く年が1795年であることがよくわかる。
この年に、正祖は43歳になっていた。彼は1800年に亡くなっているので、その5年前ということになる。名君として絶対な評価を受けていた彼の全盛期であったと言える。
そして、このドラマの中でしきりに出てくるのが「烈女」というキーワードだ。
当時の烈女とは、亡き夫の後を追って自決する夫人のこと。朝鮮王朝が国教としていた儒教の価値観において、烈女を崇拝する風潮が顕著だった。実際、上流社会で烈女が出ると、その家の前に「烈女門」を造り、その一家は大いに称賛された。
なにしろ、「烈女不事二夫(烈女は二人の夫に事〔つか〕えず)」が最高級の美徳と言われた時代である。まさに、儒教的な男尊女卑思想の象徴が烈女であった。
ドラマの中でアン・ヒヨンは、周囲から烈女となるような圧力を受けていた。彼女の姑は、「烈女門」ができてこそ亡くなった息子も浮かばれる、と真剣に考えていたのである。後家となった嫁の自害を望む異常な時代だった。
それでも、アン・ヒヨンが自決しなかったのは、天主教(カトリック)の信者だったからだ。自ら命を絶つことが厳禁となる教えがあり、アン・ヒヨンもそれに従っていた。ただし、当時は天主教も原則的に禁止されており、彼女の立場も危うかった。