■有名な麻薬王「エル・チャポ」が発明した密輸方法

 最初に「麻薬トンネル」が発見されたのは、国境に壁ができる4年前の1990年。シナロア州、アメリカとの国境沿いに位置するソノラ州、バハ・カリフォルニア州をテリトリーとして活動する麻薬カルテル「シナロア・カルテル」によって建設された。

エル・チャポが脱走したトンネルの映像

 トンネルは「麻薬王」として知られるリーダーのホアキン・グスマン(通称エル・チャポ)の名前から、「チャポ・スタイル」とも呼ばれる。エル・チャポは2度目に刑務所から脱走した際、地下に掘られたトンネルを使用しバイクに乗って逃走した。このトンネルの構造が「麻薬トンネル」と酷似していたという。

 トンネルの出入り口は倉庫や個人宅などに掘られる。掘削には、小型の水平掘削ドリルが使われる。期間は「2週間でできあがる」とも言われ、掘削に使われる装置の費用は5万ドル(約700万円)から7万5千ドル(約1050万円)。油圧式の鋼鉄ドア、エレベーター、照明、電動式線路、通気口などが設置されていることが多い。

■組織内には麻薬トンネル専門の技術者まで!

ジャングルの中の麻薬密造工場。劣悪な労働環境のもとコカインが精製されている。

DEA(米・麻薬取締局)/麻薬博物館所蔵

 実際に作業をするのはカルテルに雇われたり強制労働を強いられた労働者で、完成後は秘密を守るために解雇されるため、捜査に協力して証言をする例はほとんどない。

 麻薬カルテルにトンネル掘削の専門家の存在がいる、と長らく捜査機関から指摘されていた。実際に2012年に逮捕されたシナロア・カルテルのメンバー、ホセ・サンチェス・ビリャロボス(José Sánchez Villlalobos)は、トンネル建設に積極的に関与しているとされた。

 トンネルは1990年から2016年3月までに、計224本発見されている。米麻薬取締局(DEA)によると、そのうちの8割以上となる185本が米国まで到達していた。発見されただけでこの数なので、実際には数百本、廃棄されたトンネルも考慮すると4ケタに近い数のトンネルが存在する可能性が高い。アメリカとメキシコの国境の地下は、まさにチーズのように穴だらけなのだ。

■麻薬専用の「パイプライン」まで計画!?

 2008年10月にメキシコ当局は、幅が約25cmのパイプを発見。これは国境から約200m離れた家までつながっていて、最先端の産業機器を駆使し、「麻薬パイプライン」を構築しようとした痕跡が残っていた。現状、パイプラインで輸送されるのは石油や水などの液体やガスなどだが、すでに何らかの方法でパイプラインを使って麻薬を運ぶ方法が確立されているのかもしれない。

 あの手この手を使って、麻薬はアメリカに運ばれる。最大の原因は、「アメリカ人が麻薬を高い値段で買うから」だ。各州で大麻の合法化が進むアメリカだが、コカイン、ヘロイン、LSD、メタンフェタミン(覚醒剤)、アンフェタミンなどのハードドラッグが合法化する日は来るのだろうか?