■「ストックホルム症候群」は都市伝説だった!

 漫画、アニメ、テレビドラマ、小説、映画で何度も描かれてきた「ストックホルム症候群」という心理現象は、すでにおなじみだろう。

デジタル大辞泉によると、

ストックホルム‐しょうこうぐん〔‐シヤウコウグン〕【ストックホルム症候群】

誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長い時間を共にすることにより、犯人に過度の連帯感や好意的な感情を抱く現象。ストックホルムシンドローム。[補説]1973年にストックホルムで起きた人質立てこもり事件で、人質が犯人に協力する行動を取ったことから付いた名称。

 という説明がされている。しかし、前編で紹介したように「ストックホルム症候群」とは、多くのメディアで報道されたわりに、専門的な研究はほとんどなされていない。また、「診断」するための症候について明確な定義も無いのだ。

 いわば、名前だけ広まったが中身はモヤモヤと不確実な都市伝説みたいなもの。では、なぜ単なる強盗事件が世界的に知られる「ストックホルム症候群」なる言葉を生んだのか? それは犯人たちのキャラクターにあったという。

前編はこちら

■イケメン過ぎる強盗犯がこの言葉を生んだ

 前編で紹介したように「ストックホルム症候群」という言葉が生まれたきっかけは「ノルマルム広場強盗事件」。人質の女性行員が「強盗犯は(私たちを人質にしたけれど)いい人たち」と言い出した奇妙な強盗事件だ。そして、こんな奇妙な事態が生まれたのは主犯のヤン=エリック・オルソン、警察の協力者となったクラーク・オロフソンのキャラクターの影響によるところが大きい。

 希代の犯罪者で、魅力的なイケメンのクラークは、1967年にマディオリー・ブリトマー(Madiorie Britmer)と刑務所の中で婚約。1976年に、刑務所を脱走し逃亡生活を送っている間に、ドイツの電車で出会った当時19歳でベルギー出身のマライケ(Marijke)と、のちに獄中で結婚。2人はベルギーの田園地帯にある大きな家に住んでいた時期もあった。

マディオリー・ブリトマーとクラーク・オルフソン
※画像は「ELLE」スウェーデン版より

 

マライケとクラーク・オルフソン
※画像は「thecinemaholic.com」より

 マライケとは1999年に離婚。クラークにはマライケとの結婚前に生まれた2人の娘、前マライケとの間に3人の息子、現在の婚約者との間に1人の息子がいる。また、主犯のエリックにも、事件後、彼を魅力的だと感じた女性から多くの手紙が届いたという。