■こんなヤバい魚はどこに?オニダルマオコゼの生態

「そんなギネス級の猛毒魚がいるなんて、もう海水浴行けないじゃん!」

 と肝を冷やした方もいるだろうが、少しだけご安心を(ほんのちょっとだけだが……)。オニダルマオコゼの生息域はインド洋・太平洋西部の熱帯域に分布し、サンゴ礁など浅い海に生息する。つまり、日本近海といっても、遭遇する可能性があるのは小笠原諸島・奄美大島・沖縄周辺など。つまり、南のビーチに行かない限りこの猛毒の犠牲になる可能性は少ないのだ。

 とはいえ、この先ゴールデンウィークや夏休みに南の海に向かう方もいるだろう。そこで、基本的な注意点をあげておこう。まず猛毒以上に注意すべきは、その擬態能力。体長は40cm程度で、全身がコブ状の突起やくぼみで覆われ、岩に擬態する。

 英語では「Stonefish」、沖縄の方言では「イシアファー(あるいはアファ)」と名付けられるように、誰もが石と見まがう変装の達人で、写真で見てもその体の全体像は非常にわかりにくい。実際、オニダルマオコゼによる死亡事故の大半は「石だと思って踏んでしまった」などの誤認が大半だ。

 もっとも、オニダルマオコゼも間違って踏まれるために石に擬態しているわけではない。じっと隠れてサンゴ礁や海底の石と間違えて近づく魚を捉えるための生存戦略なのだ。踏まれるオニダルマオコゼにしてみたら迷惑この上ないことだろう。

■「ハブの毒の30倍」ってどれだけ人を殺せるの?

 オニダルマオコゼの毒は俗に「ハブの毒の30倍」と言われる。背中には最大15本のトゲがあり、このトゲに5〜15mgの強力な神経毒を蓄えた毒袋がついている。人間が刺された場合、1〜2本のトゲで致命傷になる可能性がある。

 ただ、ハブの30倍といってもピンとこない人もいるだろう。猛毒生物の比較対照によく使われる基準「青酸カリ」を例に見てみよう。青酸カリの「半数致死量(注入されたら2人に1人が死ぬ量)」が体重1㎏あたりで10mg。簡単に言うと、体重50㎏の人なら0.5gで死にますよということ。

 で、オニダルマオコゼの半数致死量はというと、なんと0.017mg。つまり青酸カリの約600倍! 上の例のように体重50㎏の人なら0.001g以下で殺せるということ。妖怪じみた名前だなんて言ったが、こんな殺傷能力はそんじょそこらの妖怪など屁でもないほどの凶悪さだ……。

 これほど非常に強い毒性を持つオニダルマオコゼに刺されると、呼吸困難や痙攣、激しい痛み、腫れ、発熱、発汗、筋肉の麻痺、意識喪失を起こして死亡することがある。特にダイビングやシュノーケリングの際は、注意が必要だ。

 1983年、沖縄の読谷村でダイビングインストラクターの男性がオニダルマオコゼに刺されて意識を失い、水死したケースがある。毒によって直接死亡するだけでなく、意識不明→水死という危険性もあるのだ。また、2010年8月にはダイビングインストラクターの男性がダイビングの講習中にオニダルマオコゼに刺されて死亡する、という事故が起きている。