■「伝説の怪談・くるりんぱ」が執筆のきっかけ?
──「刊行記念対談するなら、ぜひ吉田悠軌さんを」という青柳さんの熱烈なオファーで実現したんですが、まずはその辺の経緯から。
青柳碧人(以下=青柳):実は僕、ずっと吉田さんの怪談を追っかけてまして。今日も「吉田さんに訊きたい10の事」ってメモをもってきたぐらいなんです。実際には14個あるんですけど(笑)。実は、7、8年前に一度、浅草で行なわれていた怪談ライブにはお邪魔したことがあるんですが、お会いするのは初めてで……。
吉田悠軌(以下=吉田):それはそれは、お声がけありがとうございます。浅草というとフランス座でやった怪談社(注1)さんのイベントですかね?
青柳:そうそう。そもそもはもう十数年前ですかね、「稲川淳二の怪談グランプリ」(注2)という番組で吉田さんの怪談を初めて見て……「くるりんぱ」という話なんですが。
吉田:あぁ、史上最低得点の(笑)。
青柳:ええッ、そうなんですか!? 僕はあれがいちばん吉田さんの怪談で印象的なんですが。
吉田:私の怪談の中でも「くるりんぱ」がいちばんって言って下さる方も多いんですけどね。いまだに誰も抜けない史上最低の……。
注1/大阪を拠点に全国各地の怪異体験談を蒐集し、怪談イベントや著作などで発表する団体。2000年代半ばから息長く活動し続け「怪談のシーハナ聞かせてよ。」(エンタメ~テレ)などメディア露出も多数
注2/怪談業界の大御所・稲川淳二を審査委員長に迎え、2009年から始まった関西テレビ主催の怪談コンテスト。吉田さんをはじめ現在の怪談業界のスター選手を数々輩出。
■実話怪談と都市伝説と2つの顔持つ「くるりんぱ」
青柳:いやいやいや、あの話が、僕が怪談というカルチャーをもう一回追いかけてみようと思ったきっかけなんですよ。もう強烈な印象で。「怪談ってこういうのでもいいんだ」って。何か文学的ですよね、あの話って。
吉田:そうですね……あれ、体験者のKさんのとは別ヴァージョンの話が北海道にあったりして、実際に変な親子が全国の飯場を転々としていたという実話怪談的な解釈とは別に、ある業種の人たちの間だけで囁かれるローカルな都市伝説って側面もあるんじゃないかとか、たぶん色々な背景があるんだろうなと思いましたし、そこをフィーチャーして語ってますね。
青柳:なるほど。実話怪談であっても都市伝説であっても、本当にあった話だろうなという“実話感”がヒシヒシと伝わってきて、強い印象を与えたんでしょうね。で、今日、吉田さんに訊きたかったことの一つが「くるりんぱ」はもうやらないんですか、という質問で……。
吉田:滅多にしないというか、「ここ一番」という時に披露しますかねぇ。怪談グランプリでは5分ほどのショートヴァージョンでしたが、本来は10分を超える長い話で、かなりカロリー使う話なもので……。
■二人の「怪談原体験」とは?
──そもそも、お二人が怪談に興味をもつきっかけってなんだったんですか?
青柳:僕の場合は「学校の怪談」シリーズ(注3)ですね。常光徹(つねみつとおる)さんの。
吉田:青柳さん私と同い年ですよね? だとしたら流行ったのってちょっと下の世代ですよね。
青柳:あ、そうです。弟が買ってきたのを僕がハマって読んでいたんです。
吉田:あれって子供向けという体裁だけど、学者さんたちがきちっと研究したり取材したりしたものなので、大人が読んでも読みごたえありましたよね。
青柳:ショッキングな描き方というか、ビジュアルもカラフルで変な写真が挟まっていたり……それがほかの本と違って衝撃的だなって。
吉田:楢喜八(ならきはち/注4)さんの挿絵とかね。
青柳:そうそうそう! 絵も好きでした。面白かったなぁ。あれで僕は基本的な「都市伝説」は知りましたね。
吉田:「てけてけ」とか、当時はまだそんなに知られていなかった都市伝説もあれで広まって、いまでは定番になってますよね。ただ、僕が子供の頃はあんまりハマらなかったというか、存在も知らなかったし……。
青柳:あれ、そうなんですか!?
吉田:怪談そのものに興味がなかったというか、もちろん、テレビで心霊番組や稲川淳二の番組をやっていれば観てましたけど。
青柳:いや、それじゅうぶん怪談好きでしょ(笑)。稲川淳二出てたらテレビ点けるって。
注3/1990年から講談社KK文庫で刊行された児童向けの小説シリーズ。著者の常光徹は国立歴史民俗博物館教授も務めた民俗学者でもある。
注4/イラストレーター、挿絵画家。『ミステリマガジン』の挿絵でデビュー。ミステリ、SF、ユーモア小説など幅広いジャンルで活躍。