■エプスタイン=イスラエルの工作員説の真実
事件発覚からエプスタインの不可解な死を経て、巷間、囁かれていた「エプスタイン=イスラエルの工作員」説。確かに、レス・ウェクスナー(前編参照)を通じて親しい友人となった、エフード・バラック元イスラエル首相も、前出のベン=メナシェの上司でアマ―ン局長だった。
工作員説では、バラックを通じてイスラエルに情報を提供していたとされるが、実はバラック自身もニューヨークのエプスタイン邸に出入りしているのが目撃されており、おぞましい性的接待の顧客の一人だったとされる。さらに、2012年には突然、国防相を辞任し、政界引退を表明し周囲を驚かせたのだが、この不可解な行動も何らかの力が働いたものと推測される。つまり、エプスタインのハンドラーというよりむしろ、エプスタインの仕掛けたハニートラップにかかった愚かな犠牲者の可能性もあるのだ。
そして、なぜビル・クリントンやトニー・ブレア、アンドルー王子など各国要人やビル・ゲイツのような世界を左右する経営者を執拗に「ペドフィリア島」に誘い、哀れな犠牲者となった少女たちをあてがったのか? という根本的な疑問も、モサド流の諜報工作(ハニートラップ)と考えればすっきりする。
■真相が明かされる日は来るのか?
もちろん、後編冒頭、ホッフェンバーグのくだりで説明したように、各国の王族やセレブ人士との親密さを強調するのはエプスタインの「闇ビジネス」の手口だったのは大前提だろう。実際、レス・ウェクスナーを誑し込んだ頃から、エプスタインの常套手段だったのは明らかだ。
しかし、単にセレブとの交流を見せびらかすだけでなく、そこにおぞましい性的接待や少女たちの人身売買、セックステープの盗撮という要素(実際にFBIの捜査で寝室やバスルームに隠しカメラが設置されていたのが判明している)が加わったのは80年代末から90年代初頭にかけて、特に、父ロバートの死後、1991年末にギレーヌがニューヨークに移住した以降から始まっている。
事実、少女たちを積極的に狩り集めたのは「エプスタインの売春斡旋業者」と呼ばれたギレーヌだ。そして、彼女の背後にあるのは父ロバート以来の……そこに世界最強の諜報機関モサドの陰謀が透けて見えてしまうのも無理からぬところだろう。
ここまで見てくると、工作員説以上にトンチキな「DSに繋がる悪魔崇拝のセレブたちが、少女たちの性的搾取や幼児を虐殺して得たアドレノクロムで──」 といった陰謀論が飛び交うのもまた、情報戦を得意としたモサドの隠蔽工作と考えることもできる。本物の陰謀を隠すため、ニセ情報(三流陰謀論)を流すというのは諜報の世界ではよくある話だ。
この2024年3月には、ギレーヌ・マクスウェルが反訴など裁判闘争で逆襲に転じるという噂もあるが、エプスタイン島事件に隠された世界規模の謀略が明らかになる日は来るのだろうか。
「Steven Hoffenberg, Debt Baron Who Ran a Vast Fraud, Dies at 77」New York Times 2022年8月26日記事
『インテリジェンス闇の戦争 イギリス諜報部が見た「世界の謀略」100年』ゴードン・トーマス著/玉置悟訳(講談社)
『憂国のスパイ:イスラエル諜報機関モサド』ゴードン・トーマス著/東江一紀訳(光文社)
「Jeffrey Epstein’s elite circle was huge. What was the source of his $580m fortune?」Gurdian.com2024年1月4日記事
「Mega Group, Maxwells and Mossad: The Spy Story at the Heart of the Jeffrey Epstein Scandal」Mintpress News2019年7月7日記事
「Why was physicist Stephen Hawking named in Epstein’s list?」FilmDayly 2024年1月22日記事
「Epstein list reignites suspicion the pedo financier was working for Mossad and blackmailing the elite with help of information he gleaned from 'useful idiot' Prince Andrew - after meeting Israeli PM Ehud Barak at least THIRTY SIX times 」DailyMail online 2024年1月4日記事