■バイオハザードの末、地上から消えた島

世界では「Resident Evil」の名で知られるバイオハザードシリーズ。しかし、現実にも震え上がるようなバイオハザード島が……

/画像:Shutter Stock

 1996年、ソニーの家庭用ゲーム機PlayStationのソフトとして発売されるや大ヒット。現在では全世界でシリーズ累計1億3000万本を超える「サバイバルホラーゲームの原点にして金字塔」と呼ばれるバイオハザードシリーズ。そのタイトル「バイオハザード」とは「生物災害」の意味で、一般的には、ゲーム同様、死を招くウイルスや病原体が流出し、多くの犠牲者が出るものと理解されている。

 

 そして、私たち人類の歴史上、数々のバイオハザードが起きている。1967年、西ドイツ(現ドイツ)のマールブルクやユーゴスラビアで発生したマールブルクウイルス漏洩事件(7人死亡)、1979年、旧ソ連スヴェルドロフスクで発生し66人の死者(注1)を出した炭疽菌漏洩事件など、数え上げればきりがないほどだ。

注1/現在のロシア連邦中央部の都市、エカテリンブルグで死者の数は一説に100人以上とも。

 

 それらの多くは、軍による生物兵器実験場や軍とかかわりの深い民間企業(まあ、要はアンブレラ社みたいなやつ)の実験施設から漏洩したものだ。そして、こうした実験場の中には、事故当時から場所も名前も、そして被害の状況もすべてが隠蔽された「この世に存在しない場所」もあったのだ。

 

■旧ソ連の極秘生物兵器実験場「アラルスク7」

NASAによる衛星写真に写ったヴォズロジデニヤ島

 軍事機密ゆえ地図上から消された島といえば、日本でも戦前から太平洋戦争中にかけて極秘の毒ガス兵器製造拠点だった、広島県竹原市の大久野島が知られている。だが、その規模や扱っていた生物兵器の凶悪さにおいては、遥かに上回る島が存在する。いや、正確には「存在した」だ。

 

 その島の名は「ヴォズロジデニヤ島」。かつては中央アジア、アラル海に浮かび、現在のカザフスタンとウズベキスタンの国境沿いに存在した島だ。当時、この地を支配していた旧ソビエト連邦政府により、すでに1920~1930年代にはこの島でコレラ、ペスト、野兎病(注2)などの生物兵器実験が行なわれていたという。

注2/ウサギなどを宿主とするブルセラ菌によって引き起こされる致死性の高い感染症。このブルセラ菌は米・疾病対策センター(CDC)により、天然痘ウイルスやエボラウイルスと並んで、バイオテロに利用される恐れのある「特に留意すべき病原体」の一つと指定している。

アラルスク7設立を推し進めたスターリン

/画像:Wikimedia Commons

 その後、10年ほどの謎の空白期間を経て(一説には実験の失敗が原因とされる)、スターリン政権下の1948年に生物兵器研究所が設立され、1954年には悪名高い生物兵器実験場「アラルスク7」が本格稼働を始める。同時に、ヴォズロジデニヤ島には飛行場や研究者や軍の兵士とその家族が暮らす秘密都市・カントゥベックが造られ、最盛期には1500人もの関係者が暮らしていたという。

 

 ただ、この島が「バイオハザードの島」と言われるのは、1992年、旧ソ連崩壊で閉鎖されるまで40年近く、天然痘ウイルスや炭疽菌、ペストなどを兵器化する恐るべき実験が繰り返されたことだけではない。それ以上に、ウイルス兵器の流出事故が続発し、少なからぬ死者も出していることに起因する。その代表的な事件がこれだ──。