■すべてはフェイク! 集団自殺ではなく虐殺だった

犠牲になったレミングたちに哀悼の意を 。

画像:Stable Diffusionで作成

 このレミングの死の行進のシーンで作品はアカデミー賞を獲り、レミングの死の行進は広く知られるようになるのだが……。映画公開から25年後の1983年、カナダ放送協会のプロデューサー、ブライアン・ヴァリーが詳細の調査を発表、完全なフェイクだと判明した。

 

 Alaska Fish & Wildlife Newsの記事「Lemming Suicide Myth Disney Film Faked Bogus Behavior(レミングの自殺神話、ディズニー映画の偽りの行為)」によれば、作品に出てくるレミングはすべて輸入されたもので、撮影はレミングの生息域とは遠く離れたカナダの内陸部で行なわれたのだそうだ。撮影班は野生のレミングを見てもいなかった。

 

 レミングの数をごまかして大集団に見せかけるため、ターンテーブルに乗せて走らせ、崖から飛び込むシーンではスタッフに海に投げ込まれたのだという……ひどすぎるぞ、ネズミ映画会社。

 

 なお動物学者の研究によると、レミングの数が減るのは、キツネやオオカミなどに食べられるからだそうだ。けして集団自殺のせいではない。

 

■動物は自殺する?しない?

 レミングの死の行進はウソだったが、自覚的であれ結果的であれ、動物は自殺をするのだろうか?

 

 生物学者のアルフレッド・G・ボーンは論文「サソリの明白な自殺」で、水槽に入れたサソリを虫眼鏡で太陽光を集めてあぶり、逃げるサソリを何度もあぶったところ、5回目の実験の最中、急に逃げるのをやめ自分の尾の毒針を自らに刺したという。

 

「自殺するサソリ」は議論を呼び、再実験が行なわれたが、サソリは自殺する前に死んでしまった。

 

 また、アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー『ザ・コーヴ』 (2009年公開)には、自殺するイルカの話が出てくる。イルカ調教師で動物愛護活動家のリチャード・オバリーは、映画の中でキャシーという名前のイルカが、重度のうつ病になり、水底に沈んで上がってこず、溺死したと語っている(※2)
※2 「Can nonhuman animals commit suicide?」(David M. Pena-Guzman Animal Sentience 2017.078)

 

 自殺らしき例は犬や鳥、ウサギなどでも見られ、ほとんどは非常に狭い檻や飢え、痛みなどの苦痛から食欲をなくし、衰弱死する(※2)。ただし、これをもって「自殺」と言っていいのかどうかは難しい。サソリにしてもイルカにしても、人間が一般的に言う自殺というよりは、ストレスによってうつ状態になった結果の事故死だろう。