■コナン・ドイルまでが「ファラオの呪い」を肯定
さらに、命を奪われまではしなかったものの、呪いによる災厄(?)に見舞われた人物もいる。ハワード・カーターの友人で編集者のブルース・S・イングラムは、カーターから発掘の記念にミイラの手で作られた文鎮を贈られた。ただ、その手首はスカラベ(注3)のブレスレットがはまっており、そこには、
注3:古代エジプト人が「聖なる甲虫」と崇めたコガネムシの一種。フンコロガシとも。
「私の体を動かす者に呪いあれ。火と水と疫病に見舞われるだろう」
という呪いの文言が刻まれていたという(そんなものをプレゼントするなw)。そして、これを受け取った直後、イングラムは自宅が火事に遭い、建て直したら今度は洪水に襲われたという。そして、呪いの言葉といえば、古代エジプトで聖なる文字とされたヒエログリフで、ツタンカーメン王墓の入り口には、
「偉大なる王(ファラオ)の墓に触れた者に、素早き翼で死が飛び掛かるだろう」
という呪いの碑文が刻まれていたという。ここまで“証拠”が揃うと、ツタンカーメンの呪いはやはり本当だったのでは? と思うかもしれない。実際、カーターたちの地元である当時のロンドンでは、スピリチュアル(霊的)な「呪いは実在した」と信じ込む人から、
「以前から、王の墓を暴いた関係者が続々と死亡していた」
「墓荒らし対策で墓の内部に有毒なカビが仕込まれていた」
「何らかのガスが墓の中に溜まっていた」
など「科学的に呪いの仕組みを解明しよう」といったあまたの説が飛び交った。
その中には「シャーロック・ホームズ」シリーズの作者、アーサー・コナン・ドイルも含まれるのだが、ドイルによれば数々の変死や怪事は「古代エジプトの神官が生み出した“エレメンタル(≒精霊)”が引き起こしたもの」だという。さすが、大作家にして心霊研究家のドイルらしい解釈だが……。
■むしろ長生きだったハワード・カーターたち
かくして、世紀の大発見から一転、呪われた発掘とされてしまったハワード・カーターたち。ただ、当のカーターはこの「ファラオの呪い」騒動を、「Tommy rot(まったくのたわごと)」とバッサリ。実際、一番呪われておかしくないカーターは、1939年に65歳で亡くなり、当時としては寿命を真っ当したほうだ。
さらに、前述した「呪われて変死した人々」も、よくよく調べると呪いとは無関係とわかる。例えば、オーブリー・ハーバートは歯科手術のミスから敗血症になっており、エブリン=ホワイトは自死した恋人の後追い自殺(タクシー内で拳銃自殺と悲惨なものではあるが……)。A・C・メイスに至っては、発掘現場でのブラック労働が原因で病んだと推測され、呪いよりよっぽど恐ろしい話だ。
騒動の発端となったカーナヴォン伯も、虫刺されの傷をうっかり傷つけて敗血症になったのが原因。しかも、20年ほど前の自動車事故から体調を崩しがちで、死亡した年齢も57歳と、当時としては老境に近い年だった。さらに、一緒に王墓に入ったカーナヴォン伯の娘エブリンに至っては、1980年まで存命で78歳で亡くなっている。
■「ファラオの呪い」は大手メディアのフェイクニュースだった!?
ちなみに、後に研究者やジャーナリストが調べたところ、発掘式典に参加した26人をはじめ、「ツタンカーメンに呪われるはず」の関係者の平均寿命を調べたところ70歳以上だったという。むしろ呪いで健康長寿じゃないか!
にもかかわらず、昭和の日本の少年たちまでビビらせた「ツタンカーメンの呪い」がここまで広まったのはなぜか? 一つには今も昔も変わらない大手メディアの偏向報道があったという。実は、ハワード・カーターたち発掘隊は、大手紙タイムズと特約を結んでおり、世紀の発見に関するニュースは同社が独占していた。
当然、ライバル紙は面白くない。そこで関係者に不幸があるたびに「それみろ!ファラオの呪いだ」「ツタンカーメン王の祟りじゃ~」と騒ぎ立てたというわけだ。なお、現代の考古学者でエジプト学の大家、ドナルド・B・レッドフォード博士は、そもそも前に挙げた「王墓に刻まれた呪いの碑文」自体がまったくのデマで、「ツタンカーメンの呪い」の証拠と言われる様々なものは、
「Unadulterated claptrap(純度100パーセントのでっち上げ!)」
と斬って捨てている。それでも100年以上「本当にあった呪いの事件」と語り継がれるのは、いかに当時のメディアの扇動が酷かったかのいい証拠だ。いわば大手メディアのフェイクニュースが都市伝説を生み出したということになるだろう。そういう意味でも、令和を生きるZ世代にも知っておいてほしい都市伝説だ。