■政府が抹殺した第一発見者?

 

サンホセ号

コロンビア文化省が公開した沈没地点の画像と3DCGマップ。この位置を最初に見つけたのはわれわれだとSSAは主張しているが……。

画像:COLOMBIA MINISTRY OF CULTURE

 ここで待ったをかけたのが、トレジャー・ハンティングを目的にアメリカの投資家グループが出資したサルベージ会社「シー・サーチ・アルマダ」(SSA)だった。彼らの主張によれば、すでに1981年にほぼ同じエリアで沈没船を発見していたというのだ。

 

 しかも発見当時、コロンビア政府は「SSAが35%:コロンビア政府が65%」という取り分の約束を反故にしたうえ、本格的な引き上げ作業を行なうことを許可しなかったという。

 

 それどころ、コロンビア議会は即座に「財宝のすべてを国家が受け取る権利」を定めた特別法を可決。これによりSSAに与えられるのはたった5%の「発見者手数料」だけ。しかも、そのうえ45%の重税が課されることになった。

 

■遂に30年を超す法廷闘争へ…

 

サンホセ号
サンホセ号が沈んだカルタヘナ沖では2019年7月、実際に大量のスペイン銀貨を積んだ船が発見されている。決して夢物語ではないのだ。 画像:Shutterstock

 ぼったくりもいいところの扱いに納得しないSSAは裁判所に提訴。10年以上におよぶ法廷闘争の末、1994年にコロンビア最高裁判所は前述の特別法を違憲と判決。2007年にも「財宝はコロンビア政府と発見者のあいだで半々に山分けしろ(もう仲直りしろ!)」と判決を下した。

 

 しかし、コロンビア政府はこれらをあっさり無視。怒り心頭のSSAは、2010年代にも二度、アメリカ合衆国の法廷に提訴したがどちらも却下されてしまった。

 

 ようは30年を超す法廷闘争を繰り広げてきたところに、「うち(コロンビア政府)が見つけたどー!!」と発表があったのだから、SSAが再びブチ切れても仕方のないところ。

 

 しかも、「伝説の沈没船(と3兆円のお宝)」の真の持ち主は誰か? という問題は、これだけでは済まなかった──。

 

■お宝巡り「四皇バトル」が!?

 

サンホセ号

コロンビア政府はバトルの一方で着々と無人潜水艇などを使い探索を進めている。

画像:COLOMBIA MINISTRY OF CULTURE

 まず声を上げたのがスペイン。「そもそもスペイン王室の船なんだから、うちのものに決まっている!」とサンホセ号のお宝の権利を主張。しかも、「沈没した船は、その際に掲げていた国旗が示す国のもの」という国際法や国連の判断をバックに、コロンビア政府と交渉を進めているという。

 

 さらにサンホセ号が沈んだコロンビア・カルタヘナ沖からはるか遠く離れた、ボリビアの「チャルカ・カラカラ」と称する先住民グループが、われわれこそ真の所有者だと名乗り出た。アンデス山脈に近い内陸国の先住民族がなぜ? と思う方もいるだろう。だが、

 

「サンホセ号に積み込まれた金銀財宝はそもそも、われわれの先祖から奪われたものだ!」

 

 という彼らの主張には確かに一理ある(国際法廷で通るかどうかはわからないが……)。

 

 こうして、コロンビア政府、SSA(バックはアメリカの投資家集団)、スペイン王室、ボリビア先住民グループと、漫画「ワンピース」の”四皇”ではないが、ある意味キャラの立った登場人物たちが四つ巴で、伝説の沈没船と3兆円の財宝を奪い合っているわけだ。

 

サンホセ号
伝説の沈没船の財宝は誰の手に……?(写真はイメージ) 画像:shutterstock

 

 そして現在──いまだ誰も「伝説の財宝」に辿り着けていない。2024年2月には、コロンビア当局が沈没船からいくつかの物品を回収する計画を発表したが、水深600メートルの深海ゆえ、その作業は難航することが予想される。サンホセ号が完全に引き上げられるまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。果たして、沈没船と財宝は誰のものになるのだろうか?