■四半世紀の時を経て「このホラ」が再臨!

 2024年現在の「ジャパン・ホラー」においては、ライブや配信で語る「怪談師」やモキュメンタリ―(フェイクドキュメンタリー)などの映像系が特に活況を呈しているが、かつて1990年代は「ホラー・ジャパネスク」と呼ばれたホラー小説、怪奇小説のムーブメント、あるいは『学校の怪談』シリーズのような活字媒体がブームをけん引していた。

 

 では、活字でホラーを楽しむ層が相対的に少なくなったのか? いやいやとんでもない。活字分野も百花繚乱というか大豊作が続いているのだ。その証拠が三冊目に紹介するこの『このホラーがすごい!2024年版』(宝島社)。なんと、前作『このホラーが怖い!99年版』(ぶんか社)から四半世紀、まさに満を持して登場したのだ。もちろん、怪談やホラー小説ファンのみならず多くの読み手に大歓迎され、たちまち重版されたのは、この業界の片隅に暮らす編集部としてもうれしいニュースだった。

 

 前項の『怪談屋怪談』が語り手/書き手など発信側のプロなら、こちらは「読み手」のプロフェッショナルたちが厳選した国内外のホラー作品ベスト20(※2)が目玉だが、それ以外の読み物も充実。岩井志麻子、平山夢明、三津田信三など人気作家13人が語る「私の怖い話」や、実話怪談、ホラー映画、クトゥルフ神話にSCP財団まで(!)、初心者からマニアまで納得のコラムも読み応え十分だ。

※2 候補作は2023年4月から2024年3月までに刊行された作品。

 

 このサイトを見ていながら「怖いのはちょっとなぁ……」という方も、前述したようなSF系の作品や、ミステリー寄りの作品もランキングされているので、『このホラ』をガイドとして「ジャパン・ホラー」の世界を渉猟してみてはいかがだろうか?

 

このホラーがすごい!2024年版
このホラーがすごい!2024年版

1999年刊行の『このホラーが怖い!99年版』から四半世紀の時を経て、まさに満を持して刊行された『このホラーがすごい!2024年版』。23年4月から24年3月までに刊行された国内外のホラー作品ベスト20をランキング形式で紹介。巻頭では雨穴、梨、背筋というモキュメンタリ―ホラーの旗手3人が鼎談。

■モキュメンタリ―の最先端を“体感”するなら

 前項の『このホラーがすごい!2024年版』の冒頭を飾ったのが、雨穴、背筋、梨による鼎談だった。文字面だけ見た門外漢の方は「なに?」と戸惑うと思うので、三氏の簡単な説明をつけよう。

 

 雨穴は『変な家』シリーズ(飛鳥新社)や『変な絵』(双葉社)などベストセラーを連発。背筋は10万部を超える大ヒットになった『近畿地方のある場所について』(KADOKAWA)の著者。そして、梨は伝説のSCP財団に始まり、著書『かわいそ笑』『お前の死因に飛びきりの恐怖を』(ともにイースト・プレス)、テレ東の『このテープもってないですか?』『祓除』(※3)の構成など多方面で活躍している。共通点は、いわゆる「モキュメンタリ―・ホラー」の旗手という点だ。

※3 実は両作品とも1冊目に紹介した『ジャパン・ホラーの現在地』の冒頭を飾った、テレビ東京プロデューサー、大森時生の作品である

 

 今回紹介した4冊のなかで2冊がキーワードに挙げている「モキュメンタリ―」あるいは「フェイクドキュメンタリー」という言葉。昭和世代のオカルト者なら、映画『食人族』、『ブレアウィッチ・プロジェクト』(これらは前出の「ファウンド・フッテージ」の分野でもある)、あるいは、伝説の「川口浩探検隊」を思い浮かべる方もいるだろう(ただし、川口浩だけはガチ。そう信じて生きているw)。

 

 いまや、日常会話にも顔をのぞかせ始めた「モキュメンタリ―」や「フェイクドキュメンタリー」だが、そのムーブメントのきっかけとなったのが、YouTubeで配信されている「フェイクドキュメンタリーQ」だ。たった3年でチャンネル登録者数30万人超え、動画の総再生回数も1000万回を超え、今もブームの最先端をゆく人気サイトである(※4)

※4 数字はいずれも2024年8月末現在のもの。

 

 そんな「フェイクドキュメンタリーQ」が遂に書籍化された。タイトルはそのまま『フェイクドキュメンタリーQ』(双葉社)とはいえ、1冊目に紹介した『ジャパン・ホラーの現在地』にも登場した寺内康太郎監督とサブチャンネルを含め160万人超の登録者を惹きつけるオカルトチャンネル「ゾゾゾ」のディレクター・皆口大地がタッグを組んだ、一筋縄ではいかないサイトを製作するチームだけに、単なる活字化やノベライズのはずがない。

 

 動画第一作の「封印されたフェイクドキュメンタリー」の”その後”を追う形の物語や、逆に、書籍のところどころに差し込まれたQRコードから動画へと繋がっていく作品など、単に「動画」「書籍」それぞれで完結しない仕掛けなのだ。ホラー(恐怖)や不気味さを伝える道具として、活字は活字、映像は映像という垣根を超えた斬新なチャレンジとしても、注目の一冊だ(ていうか、この自由な感じが掛け値なしで面白い)。

 

フェイクドキュメンタリーQ
フェイクドキュメンタリーQ

チャンネル登録者数28万人。玄人筋の怪談ファンから小中学生まで「ヤバいものを観てしまった……」と虜にしてしまったモキュメンタリ―の人気YouTubeチャンネル「フェイクドキュメンタリーQ」から遂に書籍が登場。