前編ではわが日本が誇る(?)トンデモ軍事研究機関「登戸研究所」を紹介したが、世界一の軍事大国アメリカにおける軍事研究と来たら、その比ではないトンデモぶりだった……。
「兵隊がラブラブになったら戦争になんないんじゃねえ?」
「虫がめっちゃ寄ってきたら銃撃てなくない?」
とでも考えたのか……これ実際に、米・空軍研究所が研究していたというガス兵器の話だ。今回はこうした「ちょっとイカレた兵器」を紹介しよう。
■猛烈な媚薬で戦闘不能に?
非殺傷兵器、ようは殺さずにして敵を行動不能にする兵器というのは必要な武器ではある。人質を取って籠城した相手を行動不能にできれば、人質も安全、作戦も成功。閃光弾や催涙ガスのたぐいを考えればわかる。ある意味「人道的な兵器」とも言える。しかし……、
「そういう武器で、しかも、もっと広範囲に使えるやつを考えてくれ!」
とでも軍の上層部か国防総省にでも言われたのだろう、1994年に米空軍研究所(USAF Air Force Research Laborator)が作成したレポートには、世にも奇妙な兵器の開発事項が記されていた。
その一つが強力な媚薬ガスだ。「ラブ&ピース! 戦争なんてヤメだ!!」と平和な気分にさせるモノかと思いきや、狙いはもっと凶悪だった。性欲を極度に亢進させ、周りにいる兵士を男だろうが女だろうがメロメロにさせるシロモノ。当然、吸い込んだ人間は戦闘どころではなくなってしまう。しかも、米軍が付けた名前が「Gay Bomb(ゲイ爆弾)」と、「人道的」見地からしてどうなのよ? というものだった。
またその応用として、ネズミやイタチなどの小動物に作用する媚薬を撒き、性欲が限界突破して凶暴化した彼らに敵兵を襲わせるという間抜けなのか怖いのかよくわからないガスの研究も行なわれたそうだ。
■激クサ口臭薬にオナラ爆弾!?
それ以外にはスズメバチなどの有害虫を呼びよせるフェロモンを撒く、口臭を耐えがたく臭くする化学薬品も研究された。ゲリラ兵の口臭を猛烈に臭くすることで、一般人に紛れられないようにするという高度な目的があったそうだ。
さらには、オナラの匂いの爆弾なども研究された。通称「Who?Me?」爆弾。オナラの匂いがしたら、
「誰だよ屁えこいたの? うっそ、俺???」
となるからだそうだ。戦闘能力が落ちるかは疑問だが、少なくとも緊張感はなくなるだろう、たぶん。
この研究は長らく機密文書扱いだったが、公文書の公開を求めるNGO団体によって2004年に明らかになり、笑いのネタにされた。2007年には、米・空軍研究所は化学部門で、世の中の奇妙で愛らしい研究に与えられるイグノーベル賞を受賞している。
■ほとんどが実用化失敗だが…
大半の読者の皆さんの予想どおり、これらの研究はすべて失敗し、実用化されなかった。
技術的に不可能というものもあれば、オナラ爆弾のように、排泄物の匂いに極度の嫌悪感を示すのは欧米人だけで、世界のほとんどの地域は排泄物の匂いに慣れていて効果がないというものもあった。
ただし、オナラ爆弾のような悪臭兵器はどこの国でも考えるようで、イスラエル軍は暴徒鎮圧用に通称「スカンク」と呼ばれる兵器を2008年から実際に運用している。これはベーキングパウダーを発酵させたものを水に混ぜて放水するもので、下水のような臭いがするという。
それにしても媚薬ガス、これだけは成功してほしかった……。