ソン・ガンホばかりホメていては、ソル・ギョング賛歌にならない。
殺そうとする相手の母親と心を通わせてしまうヤクザを好演した『熱血男児』(2006年)はすばらしかったが、そのあとが続かなかった。売れっ子である以上、多くの映画に出るのは当然なのだが、『ザ・タワー 超高層ビル火災』(2012年)の消防隊長役や『監視者たち』(2013年)の先輩刑事役は、彼のよさが生かされていないというか、ソル・ギョングである必要があまり感じられなかった。逆に『殺人者の記憶法』(2017年)のアルツハイマーの父親役は、彼でなければ成立しなかったが、興行的にはもうひとつだった。
■「劇画」もこなす最近のソン・ガンホ
ソン・ガンホとソル・ギョング。この二人が互いをライバルとして意識しているかどうかはわからない。いや、意識していないわけがない。1967年生まれの同い年。映画デビューも同じ1996年。売れ始めたのも同じ90年代末なのだ。
『パラサイト 半地下の家族』を観ればわかるように、ソン・ガンホは屈折から凶行に及ぶ生々しい演技もじゅうぶんにこなせることを証明してしまった。しかし、あの映画の父親役はソル・ギョングが演じてもまた違った味や凄みが出たはずである。彼自身も同作の米国アカデミー賞受賞の報を聞いて、あの役を何度も脳内シミュレーションしたのではないかと想像してしまう。
■ソル・ギョングの新境地
昨年、第57回「百想芸術大賞」の映画部門大賞を受賞した『茲山魚譜 チャサンオボ』は、島流しにされる学者という悲哀のある役が彼にぴったりで、しかも55歳という実年齢がいい枯れ味を出していて、ソル・ギョングの新境地を見せてもらった気がする。奥ゆかしいインテリというキャラはソン・ガンホには難しい領域ではないだろうか。
今年の第58回「百想芸術大賞」映画部門では、『キングメーカー』の主演ソル・ギョングが最優秀男性演技賞を受賞した。日本ではまだ公開されていないので、大統領候補役という抑制の求められる演技にソル・ギョングの新たな色気を見たとだけ言っておこう。
今後、ソル・ギョングがさらに輝きを見せるのか、あるいは『ベイビー・ブローカー』の出品で日本の是枝裕和監督やカン・ドンウォン、イ・ジウン(IU)とともにカンヌ国際映画祭のレッドカーペットに立ったソン・ガンホが再び脚光を浴びるのか、注視してきたい。
*本コラム筆者の韓国映画講座(オンライン)のお知らせ
・6月26日(日)15:30~17:00
・テーマ 90分で知る「韓国歌謡50年史」
歌謡と言ってもBTSやTWICEがメインではありません。韓国庶民が口ずさんできた労働歌、プロテストソング、世相を反映した流行歌などを主に取り上げます。テレビには出ないものの多くの韓国人に愛された日本歌謡(ブルー・ライト・ヨコハマなど)の話題も。料金は税込2,640円(音楽著作権使用料含む)。詳細とお申し込みは下記で。
https://www.chunichi-culture.com/programs/program_194364.html