ドラマでも映画でも、登場人物がなんらかの映像作品を観るシーンがあると、食い入るように見てしまう。どんな作品を観ているのか気になってしまうのだ。登場人物の心理状態と彼らが観るものは無縁ではない。俳優のセリフや表情だけでなく、小道具として機能するものにはなんらかの意味があるはずだ。

■城南総合バスターミナルから複合商業施設のシネコンへ

 韓国ドラマNetflixD.P. -脱走兵追跡官-』の5話。逃亡兵(チョ・ヒョンチョル)は京畿道の水仁盆唐線野塔駅前の城南総合バスターミナルのバスに潜んでいたが、D.P.(逃亡兵追跡官)のジュノチョン・ヘイン)に見つかってしまう。

 ジュノの説得に耳を貸さずバスから飛び出した逃亡兵は、ホヨル(ク・ギョファン)らD.P.を振り切り、近くの複合商業施設にあるシネコンプレックスCGV野塔に逃げ込んだ。映画館は若者であふれているので捕らえるのが難しい。

写真は東ソウル総合ターミナルのバス乗り場。北朝鮮に面しているため軍部隊の多い江原道とソウルを結ぶバスが数多く発着する。左手には迷彩服を着た軍人の姿も

バスターミナルの周囲は集客施設が多いため賑わっている。脱走兵が身を隠すのに適しているかも。写真は東ソウル総合ターミナル前

 暗い劇場の中で目に涙を浮かべながら息をひそめる逃亡兵。周りは映画を観て笑う若者たち。このコントラストが逃亡兵の悲しみを際立たせる。

 スクリーンがちらちら映る。映像はよく見えないが、メンデルスゾーンの結婚行進曲がはっきり聴きとれた。拍手や歓声は映画のものなのか、客席からなのかよくわからない。「ハナ~、トゥル、セッ(一、二、三)」の声が聴こえる。写真を撮るカメラマンの声らしい。

 D.P.たちが逃亡兵を見つける。それに気づき、笑顔と歓声があふれる客席から抜け出そうとする逃亡兵。ホヨルが近づくと、ナイフを降り回す。劇場内の歓声が悲鳴に変わる。逃亡兵の背後のスクリーンにコンマ数秒だがファン・ジョンミンオ・ダルスの顔が映った。鼻先にナイフを突きつけられ、身動きのできないホヨル。スクリーンには鮮やかな緑のチョゴリが映る。聞き覚えのある女性の声が「♪ノ~ラン(黄色い~)」と歌い始め、歓声が沸き起こる。結局、D.P.たちは逃亡兵を取り逃がしてしまう。

大きなバスターミナルの近くには、たいてい映画館がある。写真は東ソウル総合ターミナルの近くにあるテクノマート。12階と13階にシネコンがある。撮影したのは漢江に面した14階の空中庭園。ガラス窓には漢江と蚕室鉄橋、オリンピック大橋が写っている