早速、大塚散策に出る。ありがたいのは、ゲスト二人がベタな観光スポットを巡って記念写真を撮るタイプではなく、日常風景のなかに光を見出だすことに喜びを感じるタイプだったことだ。大塚を含む城北地区(文京区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、足立区)は、日本の人の生活感にふれたい外国人旅行者にはうってつけだ。
散策の前に遅いランチをとることにする。二人とも食にはこだわりがないようで、「おまかせします」と言われたのだが、じつはこれがいちばん困る。飲み食いに執着する者なら、旅先では一食一食が最重要アクティビティだからだ。あらかじめ用意した選択肢は、大塚駅周辺の「おにぎり専門店(ぼんご)」「回転寿司(天下寿司)」「うなぎ」「そば」「ラム肉と野菜バイキング(シズラー)」。おにぎり専門店は、平日の13時過ぎにもかかわらず行列が長く、あきらめる。日本の米が旨いことは韓国人にもよく知られているので残念だ。
結局、そば屋に入ったのだが、失敗だった。この店のそばつゆは甘く、しょっぱかった。よく関西の人が関東の黒っぽいつゆは苦手だというが、あれに近い反応だ。韓国料理、とくに外食は刺激的で味が濃い印象だが、家庭料理では塩分に気をつかう人が多い。女性ならなおのこと。あとで出てきたそば湯を足して、やっとどんぶりに口をつけてつゆを飲んでくれた二人。
濃いつゆのせいもあるが、そもそも二人は少食で麺を食べきることができなかった。どんぶりに残るふやけたそばの姿は無惨だった。韓国人は日本料理に繊細さを期待するので、関東風のそばを選択する際は注意が必要だ。平壌冷麺と似たところがある京都の「すだちそば」のようなあっさりしたものだったら、もっと美味しく食べてくれただろう。