■大塚から都電荒川線に乗って下町散策、夕食は老舗居酒屋へ案内

 大塚という街は都内屈指のターミナル駅のある池袋の影に隠れていて影が薄い。山手線の駅のなかでも乗降者数は後ろから数えたほうが早いが、じつは「三業地」としての歴史がある。細かい説明は省くが、ざっくり言うと花街、色街だ。かつては東京でお座敷遊びをするというと、神楽坂か大塚だったと言えばイメージしやすいだろうか。駅の南口から巣鴨方向にのびる「大塚三業通り」は、枯れ味のなかにも艶があった。想像力を働かせながら歩けば、三味線の音や白粉の匂いが感じられる。

天祖神社に掲示されていた大塚の芸者さんの写真(1950年)
大塚駅南口を出ると、左手に「大塚三業通り」の入口が見える
「大塚三業通り」を東方向に歩いたところで出合った料亭跡
韓国の旧日本人街でもよく見かける破風建築

 大塚駅前から都電荒川線に乗り、終点、三ノ輪橋まで行く。「東京さくらトラム」という名前が付き、下町ブームですっかり観光電車になったかと思ったが、そんなことはなかった。車内の主役は、初めはおじいちゃんおばあちゃん、途中から女子高校生になり、大衆交通として健在だった。

 ベビーカーの中で泣き出す赤ん坊をなだめる母親の姿に相好を崩すゲスト二人にホッとする。「韓国のマウルバスのように客と客の距離が近く、日本人の喜怒哀楽が伝わってくるようです」「コロナの影響があるのかもしれませんが、乗客が静か過ぎて違和感がありました」など、二人は興味深げだった。

 都電を降り、三ノ輪橋駅前のジョイフル商店街を歩く。ここは韓国映画『ベイビー・ブローカー』を撮った是枝裕和監督の『万引き家族』をはじめ、数々の映画やドラマ、CMが撮影されたところだ。商店街事務局は撮影に積極的に対応してくれるそうだが、ひとつひとつの店は黙々と商いをしているように見えて好感がもてた。いつかここで日韓合作映画が撮られるといいなと思った。商店街が似合う俳優は誰だろう。男ならチェ・ミンシクソン・ガンホ。女ならイ・ジョンウンラ・ミランあたりだろうか。

三ノ輪橋駅に入ってくる都電荒川線
三ノ輪橋駅前のジョイフル商店街のそば屋さん