「だいぶ戻ってきましたね」
やってきた知人の第一声だった。彼女は地下鉄の乙支路3街から歩いてきたようだった。明洞の繁華街を通ることになる。彼女の耳にも、日本語が聞こえたようだった。やっと戻ってきたといった安堵が声を弾ませていた。
明洞の街を歩きはじめた。しかし戻ってきた日本人観光客と明洞の店の間にはまだ時差があった。シャッターが降りたままという一画もかなりある。
「ここもか……」
知人がシャッターが降ろされた店が3軒つづく一画で足を止めた。
「ここ安売りコスメの店が3軒あったんだけどな。コロナ禍前はすごくにぎわっていたんだけど」
明洞の中心街を眺めると、そう、7割ほどの店が営業している感じだろうか。つまり3割はまだコロナ禍を引きずっていることになる。
店の前に花輪が並ぶコスメ店があった。開店直後のようだった。店頭の陳列を直している女性がいた。オーナーのようだった。ソウル在住の知人に通訳を頼んで話を聞いてみた。
「空き物件が出たので借りました。メイン通りに面しているので、賃料は高いんですが。日本人? そう、日本人観光客、増えてきましたね。あとは台湾の人とタイ人。でも、本当の狙いは中国人。中国人が韓国に自由にやってくる日をじっと待っている感じ。それまではスタッフの接客教育時期だと思ってます」
やはり中国人狙いか。
さらに明洞を歩く。僕は10年以上前の明洞を思いだしてしまう。そこで出合うコロナ禍が明けた明洞の「いま」。そのあたりは次回に。