ソウル地下鉄のターミナル、鍾路3街駅から徒歩5分の「宗廟(チョンミョ)」は森に囲まれた静寂な場所にある。ここにいると、大都会ソウルのど真ん中にいるとは到底思えないのだが、この宗廟はどういう経緯で造られたのだろうか。1392年に朝鮮王朝が建国された当時から背景を述べてみたい。

■朝鮮王朝の歴代王と王妃の位牌が祀られている宗廟

 朝鮮王朝は1394年に都を漢陽(ハニャン)に定めた。現在のソウルである。翌年から王宮となる景福宮(キョンボックン)の建設が始まった。以後も次々と離宮が建設された。昌徳宮(チャンドックン)、昌慶宮(チャンギョングン)、徳寿宮(トクスグン)、慶熙宮(キョンヒグン)などである。このように離宮が多くなったことは王朝にとって都合が良かった。火事や外国勢力の攻撃などで正宮が焼失したときに、離宮が代わって正宮に昇格してうまく機能したからである。

 以上のような王宮とは性格が異なる王族直属の施設が宗廟である。27人いた歴代王とその王妃の位牌が祀られている。とても由緒ある場所であり、正宮の景福宮とほぼ同時に建てられている。今は正殿(チョンジョン)と永寧殿(ヨンニョンジョン)という2つの建物があり、位牌が増えるたびに増築を繰り返したために、かぎりなく横長になっている。正殿は全長が101メートル。単一の木造建築物としては世界最長級なのである。

歴代王と王妃の位牌が祀られている正殿

 王家がここをいかに大切にしたか。当時行われた「宗廟祭祀」は王朝最高の祭祀であり、歴代王が自ら儀式を仕切った。その伝統は王朝が消滅した現代でも継承されていて、毎年5月の第1日曜日に実施されている。こうした文化行事を保護する目的もあって宗廟はユネスコの世界文化遺産にも登録された。

 宗廟は王族の魂を祀る場所。建物にも派手な装飾が施されておらず、それゆえ荘厳な雰囲気をかもしだしている。

大都会のど真ん中にいるとは思えないほど静寂に包まれている