たくさんの韓国時代劇を見てきたが、ジュノ(2PM)主演『赤い袖先』(2021年~2022年)が最高傑作だと思っている。ドラマが描く美しくも苛烈な世界に完全に魅入られたし、主要な登場人物となった宮女たちの生活実態にも深い感銘を受けた。
まずは、朝鮮王朝時代の身分差を超えた恋愛をこれほど情感豊かに描き出せる内容に驚きを覚えた。もう一つは、当時の固定的な身分制度や男女差別といった深刻な問題を、現代的な視点を交えながら繊細かつ幅広く描き出している点に感心した。
例を挙げれば、『赤い袖先』は王宮に奉職する宮女が老齢や病気によって王宮から放り出されてしまうという現実も描いていた。王宮の煌びやかさを表わす時代劇はたくさんあったが、その裏で多くの女性たちが犠牲になっていたことを如実に示してくれたのは象徴的だった。
■『赤い袖先』で描かれた名君イ・サンと宮女ソン・ドギムの微細な心の触れ合い
実際、『赤い袖先』は非常に完成度の高いドラマで、監督や脚本家の力量は本当に見事だった。同時に、原作小説もとてもよくできているという評判が広まっていたため、その内容が一体どのようなものなのか、私は一層の関心を抱いていた。そしてついに、日本語翻訳版となる小説『赤い袖先』上巻(カン・ミガン著)が刊行されたので、ただちに手に取り貪るように読んだ。
文体がとても読みやすく、心地よい調子で進行していく。その内容は、朝鮮王朝時代後期の名君イ・サンと宮女ソン・ドギムの微細な心の触れ合いを描き出した小説だ。
物語はソン・ドギムが王宮に足を踏み入れ、恵嬪(へビン)ホン氏、のちの恵慶宮(ヘギョングン)の下で修業を積み重ねていくところから始まる。その時代は1762年であり、当時の王宮は様々な事件に揺れていたが、この小説は政治的な動きをあえて詳細に語らず、あくまでも宮女から見た王宮の日常を細やかに描いている。その中で、ソン・ドギムは自分らしさを貫き、小説は彼女の成長の足跡を丹念に綴っていく。