何よりも、ソン・ドギムは自由奔放な性格で、自分の考えを貫く強い意志を持っている。さらに、彼女は学問を愛し、筆を取れば達筆だった。その才能ゆえに、どのような場所でも彼女は重宝され、身分の高い人からも優れた評価を受けていた。

 一方、イ・サンは気難しく描かれていたが、それでも、他を圧倒するような独特な感性と価値観を持っていた。そんな彼にとって、自由奔放なソン・ドギムは気になる存在だった。いや、それ以上だ。誰にも影響されず固く自己を保っているはずのイ・サンは、実は自分でも戸惑うほどにソン・ドギムに惹かれていた。
小説の中には、印象深い場面がいくつもある。

 例えば、イ・サンから「お前は私のものになりたいのか?」と問われる場面で、ソン・ドギムは「私は誰のものでもありません。ただ自分自身として生きたいと思っています」と反論する。それでもソン・ドギムはイ・サンから「お前は私のものだ。ただ私の命によってのみ生き、そして死ぬのだ」と言われてしまう。このように強引なイ・サンに対し、彼女は反発しながらも徐々に心を開いていく。その葛藤の軌跡が物語をより魅惑的に彩っていた。

 とはいえ、究極的に言えば、宮女にとってイ・サンは雲の上の人だ。世孫(セソン)であった彼は、英祖(ヨンジョ)が亡くなった後に国王に就任する。その直後、英祖に寵愛された側室がイ・サンによって王宮から放り出される場面は強烈だ。このように「不可侵」な存在になったイ・サンに対してソン・ドギムはどう対処していくのか。その展開にゾクゾクさせられた。

 また、物語を賑やかにする登場人物たちに和まされた。ソン・ドギムの宮女の仲間たち……キム・ボギョン、ペ・ギョンヒ、ソン・ヨンヒが親友として固い絆で結ばれていたのは、ドラマで描かれていた通りだ。友人たちとソン・ドギムが宮女見習いとして交流していく様子は、実に微笑ましかった。特に小説では彼女たちの日常のありふれた会話を通して、若き宮女たちの瑞々しい生命感が具体的に描かれていた。

 さらには、歴史上の重要人物である恵慶宮、貞純(チョンスン)王后、孝懿(ヒョウィ)王后などの王族女性たちの人物描写も非常に興味深かった。

 それでもなお小説『赤い袖先』が誇らしかったのは、ソン・ドギムのように自立した宮女が朝鮮王朝の抑圧された女性史の中で勇気あふれる存在になっていたことだ。彼女のように時代を突き抜けた女性が描かれたことは、この上もない救いだ。