宜嬪ソン氏は1784年に翁主(オンジュ/国王の側室が産んだ王女)を産んだが、その王女は2カ月足らずしか生きられなかった。
その直後に長男が世子(セジャ)として冊封され、イ・サンの正式の後継者となった。それが文孝(ムニョ)世子だ。まだ満2歳になっておらず、2歳未満の世子決定は異例なのだが、それは30歳を過ぎていたイ・サンの「早く世子を決めたい」という切羽詰まった気持ちの表れでもあった。
それほどまでに待望した世子であるが、1786年5月に亡くなった。満4歳に満たない夭逝だった。あまりの心痛によって宜嬪ソン氏は衰弱した。病床についた彼女は妊娠しており、イ・サンの必死の看病が続いたが、1786年9月14日にこの世を去った。
イ・サンは最愛の人を亡くして完全に放心状態になったが、第一等の格式で葬儀を執り行った。宜嬪ソン氏の墓は「我が子」文孝世子の墓の隣に造られた(後には別々の敷地になってしまったが……)。
イ・サンは宜嬪ソン氏の墓碑銘を直接自分で記している。側室のために国王がそこまでするのはほとんど例がなかった。それでも、イ・サンには書かざるをえない痛惜の念があったのだ。
その墓碑銘の文章で彼は宜嬪ソン氏について「真摯に生きた経歴」「慎み深い性格」「節約に徹した生活態度」「目上の人に対する礼儀正しさ」などを紹介した上で、自分がどれほど彼女を愛していたかを率直な感情で綴っていた。
イ・サンは宜嬪ソン氏と文孝世子の墓を何度も重ねて訪ねていたという。
『赤い袖先』では、宜嬪ソン氏を亡くしたイ・サンがあえて彼女を忘れて生きていく様子が描かれていた。しかし、現実のイ・サンは宜嬪ソン氏を「愛し抜いた唯一の人」として決して忘れなかった。
●作品情報
『赤い袖先』
[2021年/全17話]※TV放送は日本編集版の全27話
演出:チョン・ジイン、ソン・ヨナ 脚本:チョン・ヘリ
出演:ジュノ(2PM)、イ・セヨン、カン・フン、イ・ドクファ
DVD&Blu-ray販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン