人間の喜怒哀楽が出やすい飲酒は、物語を大きく展開させるので、ドラマや映画によく登場する。前回のソジュ(焼酎)に続いて、今回は劇中マッコリの役割について見てみよう。

 マッコリは日本でいえば「どぶろく」に似た酒だが、どぶろくよりも多く加水し、発酵時間も短いので、一般に流通しているもののアルコールは6度程度だ。

■マッコリが現代劇に登場するようになったのは、2009年のブーム以降

 現代劇でマッコリをよく見るようになったのは、2009年のマッコリブーム以降だ。

 それ以前は、朝鮮王朝時代や日本植民地時代の農村が舞台になっている作品に登場するくらいだった。前者の例としては、イ・ジュンギ主演映画『王の男』(2005年)など。後者の例としては、イ・ミスク主演『桑の葉』(1986年)などが挙げられる。

 マッコリは今でこそ多くの飲食店で提供されているが、1990年代から2000年代にかけては、いわば忘れられた酒で、仁寺洞に集まっていた民俗酒店と呼ばれる風流な店や、高麗大学の周辺にあった学士酒店と呼ばれる安酒場くらいでしか飲めなかった。

ソウル・仁寺洞エリアの安国駅近くには、マッコリ横丁とでも呼ぶべき路地があり、専門店が集まっている

 2009年のブーム以降、マッコリは一気に存在感を増した。

 セミドキュメンタリー映画『女優たち』(2009年)では、『カネの花~愛を閉ざした男~』のイ・ミスクが「マッコリはダイエットにいいのよ」と言うと、同席していた『ミナリ』のユン・ヨジョン、『マスクガール』のコ・ヒョンジョン、『冬のソナタ』のチェ・ジウ、『その恋、断固お断りします』のキム・オクビンらが目の色を変えるシーンがあった。

 テギョン2PM)のドラマ初出演作としても話題を集めた『シンデレラのお姉さん』(2010年)で、テギョン演じる青年が一途に愛して見守るヒロイン(ムン・グニョン)は、伝統あるマッコリ醸造所を手伝う女性醸造士という設定だった。

仁寺洞マッコリ横丁の人気店「遊牧民ノマドゥ」。映画『パラサイト 半地下の家族』の打ち上げでソン・ガンホも来たことがある店だ

■マッコリには友情以上、恋愛未満の空気が似合う

 マッコリは家醸酒(カヤンジュ)とも呼ばれるように、もともと既製品ではなく店の主人が醸したものを提供することが多かった。そんな時代を懐かしむような視点で撮られているのが、日本のコミック原作で日本でも映画化された『リトル・フォレスト 春夏秋冬』(2018年)。都会での生活に疲れた主人公ヘウォン(キム・テリ)が故郷の慶尚北道・義城郡に戻り、自給自足の生活をする話だ。

 ヘウォンが薪割りを終えたあと、母(ムン・ソリ)から教わったマッコリ作りをする場面があった。「最高のつまみは酒を分かち合う友」。ヘウォンの心の声とともに、『タクシー運転手 約束は海を越えて』のリュ・ジュンヨル扮するジェハや、『今からショータイム』のチン・ギジュ扮するウンスクが加わり、キムチジョンと焼き豆腐をつまみに和やかな酒宴が始まる。

 三人は微妙な三角関係にあるが、感情を露わにはしない。マッコリはそんな淡い関係にも似つかわしい。ソジュと比べると度数も低く、甘みと清涼感のあるマッコリには、ゆるやかに流れる時間、まったりした空気が似合うのだ。

かつて江原道束草市にあったマッコリ酒場。主人が醸したマッコリが庭先の甕に入っていて、客が勝手に汲んでいた
江原道・寧越郡の自宅でマッコリを醸す女性