■マッコリが名脇役を演じるホン・サンス監督作品

 自身もマッコリが好きで、ときには俳優にも少し飲んでもらって演技させるホン・サンス監督。彼の作品にはブーム以前から、マッコリがよく登場している。いずれもスローペースで飲む場面だ。

『オー!スジョン』(2000年)、『次の朝は他人』(2010年)には、数年前まで仁寺洞に実在したマッコリ酒場で、今は亡きイ・ウンジュや『ムービング』のムン・ソングン、『還魂』のユ・ジュンサン、『マスクガール』のアン・ジェホンらがマッコリを飲むシーンがあった。

ホン・サンス監督の映画『オー!スジョン』の一場面。仁寺洞の路地裏にあったマッコリ酒場、通称「ワサドゥン」 (C)MIRACIN ENTERTAINMENT CO.LTD
ホン・サンス監督の映画『オー!スジョン』の一場面。左奥からムン・ソングン、故イ・ウンジュ、チョン・ボソク (C)MIRACIN ENTERTAINMENT CO.LTD

 また、『教授とわたし、そして映画』(2011年)では、故イ・ソンギュンチョン・ユミがソウル東部のハイキングコース峨嵯山(アチャサン)のテント屋台で、『川沿いのホテル』(2019年)では、『工作 黒金星』のキ・ジュボン、『D.P.─脱走兵追跡官─』のクォン・ヘヒョやユン・ジュンサンがマッコリをだらだらと7本空けるシーンがあった。

■マッコリが作る会話のリズムと時間の流れ

 映画『ワンドゥギ』は、不良高校生ワンドゥク(ユ・アイン)と型破りな担任教師(キム・ユンソク)の物語。教師とワンドゥクの父(パク・スヨン/『私の解放日誌』)が夜、シュポ(食料雑貨店)でマッコリを飲んでいる。子育てに悩む大道芸人の父を教師が慰める場面だ。

 そこに武侠小説家(パク・ヒョジュ/『今、別れの途中です』)が加わる。話題が小説に転じるが、途中でワンドゥクが父を迎えに来て、二人だけの酒席になる。ご近所づきあいのトラブルでぎこちなかった二人だが、マッコリのゆるやかな酔いで静かに和解し、少しずつ男と女を意識するようになる。

 マッコリを飲む場面には、それにふさわしい会話のリズムや時間の流れがある。イ・ハン監督は相当なマッコリ好きと見た。

 ソジュと比べると、ゆっくりした時の流れを演出する小道具となるマッコリ。日本のみなさんにも韓国のどこかの田舎町でそんな飲み方をしてもらいたい。

2009年のブーム以降、マッコリは地方ごと、原料ごとに多様化していった