映画でもドラマでも田舎の風物をおおらかに描いた作品が好きだ。ひと昔前の映画なら、ユ・スンホ主演『おばあちゃんの家』(忠清北道)、ファン・ジョンミン主演『最後の狼』(江原道)、ソル・ギョング主演『熱血男児』(全羅南道)、パク・チュンフン主演『ラジオ・スター』(江原道)、キム・ユンソク主演『亀、走る』(忠清南道)など。最近では、キム・テリ主演『リトル・フォレスト 春夏秋冬』(慶尚北道)、パク・ジョンミン主演『サンセット・イン・マイ・ホームタウン』(全羅北道)が印象的だった。

■注目作『殺し屋たちの店』、野中の一軒家に銃弾雨あられ

 田舎が舞台ということ以外、知識ゼロで『殺し屋たちの店』(ディズニープラス スターにて独占配信中/全8話)を観始めた。

『킬러들의 쇼핑몰(キラーたちのショッピングモール)』という韓国語タイトル(直訳)も興味深かったのだが、まず惹きつけられたのは第1話オープニングの山に囲まれた農村と1970年代風の瀟洒な洋屋チプ(洋風一戸建て)だった。軍事演習を告げるサイレンが、そのあとの惨劇を予知しているかのようだ。

 韓国の田舎、辺境というとやはり北部の江原道を思い出す人が多い。この農村も江原道だろうか。私が慶尚北道の栄州駅から嶺東線で北上したときの奉化郡辺りの車窓風景にも似ている。スタッフがソウル撮影地を行ったり来たりすることを考えると、距離的に近い忠清北道という可能性も否定できない。

■姪ジアンと叔父ジンマンの一瞬の幸福、床での食事シーン

『殺し屋たちの店』は、平和な農村の一軒屋がどういうわけかプロの殺し屋たちに狙われる話なのだが、印象に残ったのは、両親を失った主人公の少女チョン・ジアン(子役アン・セビン/成人役キム・ヘジュン)が、その保護者の叔父チョン・ジンマン(イ・ドンウク)に対して心を開き始めた第2話のシーン。

 風呂上がりのジアンが居間に行くと、ジンマンが床に座り込んでカセットコンロでサムギョプサルを焼いている。

 ジンマン「こっちに来い。いっしょに食べよう」

 ジアン「サムギョブサル、おいしい」

 ふだんは無表情なジンマンが一瞬ニコリとするのを見てジアンの表情も和らいだ。

 韓国人にとっては珍しくもなんともない風景だが、以前、日本人から「キッチンもテーブルもあるのに、なんでわざわざ床で調理して食べるの?」と聞かれたことがあった。