これには特別な理由があるわけではないのだが、韓国ではある年代までは座卓で食事するのが普通だったので、今でも床での食事に郷愁や安らぎを感じる人が少なくない。冬場ならオンドルがぽかぽか暖かいのでなおさらだ。来客があったときなどは席を離れず、おしゃべりしたり飲んだりしながら調理できるという利点もある。

 また、ソルラル(旧正月)などで家族が集まって食事するとき、台所は母や祖母の持ち場なので、それ以外の調理は床ですることがある。

 なんにせよ韓国人にとって床での調理や食事はリラックスにつながるのだ。ジンマンとジアンの距離が縮まったことを示すシーンとして、二人が床で食事する演出は大変効果的だった。

全羅北道・芽項のホームステイ先でホスト役のご主人が肉を焼いてくれたときの写真
旧正月、友人宅におじゃましたときは、娘さんたちが床でジョンを焼いてくれた

『殺し屋たちの店』はオリジナリティあふれる秀作だが、いい意味で過去の映画やドラマに対するオマージュも感じさせる。

 冒頭、農村にサイレンが鳴り響く不穏なシーンでは、コン・ユ主演映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』のオープニングを思い出した。また、ジンマンとジアンの関係は、『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』(イ・ソンギュンIU)や映画『アジョシ』(ウォンビンキム・セロン)と重なる。しかも前者とはヒロインの役名(ジアン)が同じだ。さらに、謎の組織との戦いという意味では、チェ・ミンシク主演映画『オールド・ボーイ』を彷彿とさせた。