現在日本で公開中の韓国映画フクロウ-』は秀逸な作品だ。朝鮮王朝第16代王・仁祖(インジョ)の世子が、清から戻りわずか2ヶ月で不可解な死を遂げたという「朝鮮王朝実録」の記録をもとに製作された。

 主演のリュ・ジュンヨルユ・ヘジンは、『タクシー運転手 約束は海を越えて』では無差別銃撃を行う軍と戦う民間人の同志だったが、『梟-フクロウ-』では相対する関係だ。

 世子の最期を目撃した唯一の人物である盲目の天才鍼師ギョンス(リュ・ジュンヨル)と、仁祖(ユ・ヘジン)の応酬にハラハラドキドキしながら、手に汗握る118分だった。

 病に苦しむ弟のために「見ざる聞かざる言わざる」を貫くべきか、はたまた真実を明らかにすべきかと葛藤し、宮廷という「暗闇」で自分の信じる道を突き進むギョンスをリュ・ジュンヨルが熱演。実に見ごたえのある作品だった。2023年の韓国映画賞を総なめしたというのも納得だ。

■朝鮮王朝第16代王・仁祖が籠城した南漢山城

 仁祖といえば、1636年12月に10万の兵を率いた清が朝鮮を侵攻したとき(丙子の役)、その攻撃から逃れるべく南漢山城(ナマンサンソン)に籠城した王として有名だ。

 冬の寒さと空腹に耐え兼ね籠城が困難となり、朝鮮はわずか47日で清に降伏。清の皇帝の目前で仁祖は額を地面につけて忠誠を誓うという屈辱を味わわされた。

 丙子の役については、イ・ビョンホン×キム・ユンソク主演の映画『天命の城』で詳細に描かれている。仁祖の清に対する深い恨みを知ったうえで『梟-フクロウ-』を観賞すると、仁祖の言動についてさらに理解が深まるだろう。

 この南漢山城は、ソウルの中心から東南に約25キロ離れた京畿道・広州(クァンジュ)市に位置する。三国時代の城跡を活用し、仁祖の時代に海抜480メートルという険しい山の稜線を結び、全長12キロの城郭を築いた。

 2014年にユネスコ世界文化遺産に登録された。現在は登山道やハイキングコースが整備されている。