■「あなたのことが好きだから」の元祖韓流スター、チャン・ドンゴンも日本語セリフに挑戦
1945年以降も日本植民地時代が続いている京城(ソウル)を舞台に、日本の警察と韓国の独立運動家が争う映画『ロストメモリーズ』(2002年)は、物語の大半が日本語で展開される。
韓国系日本人刑事役のチャン・ドンゴンのセリフはほとんど日本語なので、彼は大変な苦労をしたはずだ。同僚刑事役の仲村トオルにセリフを録音してもらい、それを繰り返し聴いて練習したという。イントネーションは微妙なものの活舌に問題はないので聞き取りには支障がなかった。
なお、本作にはキム・ウンス(『結婚作詞 離婚作曲』)が日本人役で出演し、日本語をなめらかに話している。のちにキム・スロ主演映画『おもしろい映画』、ファン・ジョンミン主演映画『影の殺人』などで流暢な日本語を披露しているように、彼は1980年代に7年間日本に住み、今村昌平監督が設立した日本映画学校(現・日本映画大学)を卒業している。
■『力道山』のソル・ギョング、『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』のパク・ヘイルとシン・ミナ
イ・チャンドン監督の映画『ペパーミント・キャンディー』や『オアシス』でスターになったソル・ギョングは2004年の映画『力動山』で、日本のプロレスラー、力道山役に挑戦している。
力道山は日本植民地時代の朝鮮半島で生まれ、二十歳前後に日本に渡ってきた人物だ。日本語はネイティブ水準なので、ソル・ギョングには荷が重過ぎたろう。聞き取りに問題のないレベルには達していたものの、当時、彼の持ち味だった影のある演技が、実際の力道山のキャラクターと乖離していて違和感が拭えなかった。映画出演に備えソル・ギョングは、昼は筋トレ、夜中はもりもり食べて増量し、武藤敬司、橋本真也、船木誠勝ら本物のプロレスラー相手に熱演したが、韓国でも日本でも映画はヒットしなかった。
2014年の映画『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』(チャン・リュル監督)では、主演のパク・ヘイルとシン・ミナが日本語を披露している。
伝統茶室の主人に扮したシン・ミナは静かに話すキャラクターだったので、聞き心地はよく、違和感はなかった。一方、パク・ヘイルは、日本人旅行者に日本語がわからないふりをして対応する大学教授の役。植民地支配に触れてきた旅行者に、韓国語で「ボクは納豆が好きです」と返すようなエキセントリックな役柄だった。その夜、携帯にかかってきた日本人からの電話には韓国人風の日本語で対応していた。
本作のシン・ミナとパク・ヘイルを見て思ったが、日本語は低いトーンで静かに話すと、日本語らしく聞こえるようだ。(つづく)