今話題の日本のドラマ『Eye Love You』では、韓国人留学生役のチェ・ジョンヒョプが、日本人との会話では日本語、心の声では韓国語を話すという設定で、2カ国語のセリフを親しみやすく披露している。 

 筆者は韓国の映画やドラマを見続けて35年になる。今はスマホさえあればいつでもどこでも多くの作品を楽しめるが、1980~1990年代は韓国作品が置いてある専門レンタルビデオ店に出かけなければならなかった。日本で韓国人と接する機会があまりなかったので、店で借りてきた映画の劇中、韓国の俳優が日本語を話すと、彼ら彼女らが身近に感じられ、単純にうれしかったものだ。

 ここでは、最近の作品から1980年代までさかのぼって、日本語のセリフにチャレンジしてくれた韓国の俳優たちを振り返ってみよう。(記事全2回のうち前編)

ファン・ジョンミンvsチョン・ドヨンの日本語対決!Netflix映画『キル・ボクスン

 韓国のスターが日本語を話す最近の作品といえば、Netflix映画『キル・ボクスン』だ。

 冒頭に登場する関西の在日韓国人ヤクザに扮したのはファン・ジョンミン。ホテル清掃員に化けた殺し屋に扮したのは主役のチョン・ドヨン。2人は片や日本刀、片や斧を手に、漢江にかかる東湖大橋の上で対峙する。2世以降の在日なら日本語はネイティブ級でないと不自然だが、その意味でファン・ジョンミンには荷が重かったはず。しかし、彼の存在感と演技力は日本語の不自然さをなんなくカバーしてしまった。

 一方、チョン・ドヨンが演じたのは日本語が話せる韓国人に過ぎないので、アクセントが微妙でもしかたがない。在日ヤクザが韓国語を聞き取れると知った途端、韓国語で本音を吐き始めるのもおもしろかった。
「寒いなあ」で始まるファン・ジョンミンの日本語発音は思いのほか自然で「おっ!」となった。しかし、チョン・ドヨンの最初の「お客さま~」の発音には「ありゃ?」となってしまった。なんというか、韓国語でお客さまに呼びかけるときの「ソンニ~ム」のアクセントのまま発音している感じなのだ。

 チョン・ドヨンは映画『約束』(1998年)で、自身の故郷でもない忠清道訛りをユーモラスに話し、当時話題になった。聞く力と再現力は抜きん出ているはずなので、また彼女の日本語が聞きたい。

■1990年代の韓国トレンディドラマに日本語のセリフが登場

 1992年には、日本の『東京ラブストーリー』の影響を受けた人気ドラマ『嫉妬』で、チェ・ジンシル扮するインバウンド観光ガイドが金浦空港で日本語を使うシーンがあった。

 また、同じ年に公開された映画『ミスター・マンマ』では、90年代のスター、チェ・ミンス(『砂時計』)が日本人バイヤーと日本語で打ち合わせするシーンがあった。チェ・ミンスの日本語はいかにも韓国人風だったが、バイヤーに扮したイ・ウォンソクは日本人かと思うほど流暢だった。

 かつての日韓ビジネスは日本主導で、韓国側が日本語を使うことが多かった。最近の日韓の商取引では英語がよく使われるようだが、韓流ビジネスの世界では日本側が韓国語を使うケースも珍しくなくなった。

 1996年には、早過ぎた韓日合作映画『極道修行・決着(おとしまえ)』が東京の高円寺などで撮影された。主演のパク・サンミン(『将軍の息子』)とパク・チュンフン(『ラジオスター』)が、哀川翔や白竜、大杉漣扮する日本のヤクザ相手に発した日本語はイントネーションこそ微妙だが、おおむね聞き取れた。パク・チュンフンはこの13年後の映画『TSUNAMI-ツナミ』で、かなり進歩した日本語を披露している。

 驚くべきはパク・サンミンの子分に扮したカン・ソンジン(『火の鳥2020』)だ。日本語のセリフが続くシーンでもしばらくは韓国人とは気づかなかった。日本に何年も暮らした人の日本語のようだった。彼はこの3年後、映画『アタック・ザ・ガス・ステーション』でユ・ジテユ・オソンと並び主役級を手に入れている。

 同じ1996年、韓国の国民俳優アン・ソンギが日本語を話す映画があった。韓国映画ではない。小栗康平監督の日本映画『眠る男』だ。1980~90年代に韓国にふれた日本人にとっては、韓国映画=アン・ソンギである。ソウルオリンピックの頃、レンタルビデオ店に並び始めた韓国映画の多くは『鯨とり』『赤道の花』など、アン・ソンギ主演作品だったからだ。

 韓国のトップスターが日本映画に出ると聞いて興奮した人は少なくなかったはずだ。自分も勇んで神保町の岩波ホール(2022年閉館)に出かけたが、あまりに静かな映画なので上映中、自身が「眠る男」になりかける始末。劇中、日本人役のアン・ソンギが発した言葉は、「森の向こうに、また村があります」だった。