彼を初めて意識したのは、ヤクザ役のソル・ギョングの兄貴分を演じた映画『熱血男児』(2006年)だった。太い眉。悲しげな目付き。裏社会に身を投じているが、悪に徹しきれない人間味があった。

 いい役者だなとは思ったが、トップスターになる人には見えなかった。その佇まいがあまりにも暗く重かったからだ。

 いまNetflixタッカンジョン』やディズニープラスムービング』などで確固たる地位を築いている俳優、リュ・スンリョンのことである。

■『ムービング』『タッカンジョン』の娘思いの父役リュ・スンリョン、ブレイクのきっかけは映画『7番房の奇跡

 トップスターの座に昇り詰めたが、マンネリ化を避けるかのように演技の幅を広げようとしたことで失速した感のある俳優というと、ソル・ギョングを思い出す。

 その一方、役柄を360度変えたことで大ブレイクしたのが、リュ・スンリョンだ。

 リュ・スンリョンは1970年11月29日生まれで、演劇やミュージカルで活躍、映像作品へと活動の幅を広げた。同じ1970年生まれの俳優に、『私たちのブルース』のイ・ビョンホンチャ・スンウォンイ・ジョンウン、『ソウルの春』のファン・ジョンミン、『ジャスティス』のチョン・ジェヨンらがいる。

 ブレイクのきっかけは2013年の映画『7番房の奇跡』。彼が演じたのは知的年齢が6歳の父親。無実の罪で刑務所暮らししながら、娘(カル・ソウォン/パク・シネ)にまっすぐに愛情を注ぐ姿が感動を呼び、1,200万人以上を動員した映画だ。

 ヤクザや軍人、スナイパーなどのいかつい役柄しかハマらなさそうに見えた俳優の大胆な変身である。

『7番房の奇跡』の主人公父娘の家は、ソウル弘済洞のタルトンネ「ケミマウル」にあるという設定だった

 そして、2017年の映画『サイコキネシス -念力-』で彼が扮したのは、妻(キム・ヨンソン)や娘(シム・ウンギョン)と暮らすことも叶わない冴えない警備員。ひょんなことから超能力に目覚め、チキン屋を営む娘をおびやかす者と闘う話は、のちの『ムービング』にも通じるものがあった。

『サイコキネシス -念力-』のラストシーンは、ソウル乙支路4街ビアホール街で撮影された