■韓国映画のなかのマッコリ酒宴名シーン
映画にもマッコリ本来の魅力である野趣を伝える作品がいくつかある。
古くは、ロードムービー『鯨とり コレサニャン』(1984年韓国公開、2011年日本公開)だ。『涙の女王』で財閥を恐怖支配せんとするモ・スリと同一人物とは思えない初々しいイ・ミスク(当時24歳)がヒロインを演じている映画である。
旅の途中でケンカ別れした主人公ビョンテ(キム・スチョル)と兄貴分ミヌ(アン・ソンギ)が田舎の市場で再会する。手持ちの生活用品を売り払ったミヌが「何が食いたい?」と聞くと、ビョンテは満面の笑みで「マッコリ~」と答える。彼は屋台でお椀におおいかぶさるように白濁した液体を飲み干す。口と椀のあいだからマッコリがしたたり落ちる。思わず、「あぁ~っ」という声が出る。右手の袖で口の周りのマッコリをぬぐう。ビョンテが荒々しく飲む様子は、これぞマッコリ情緒というべき名場面だ。
チョン・ジェヨン主演映画『ウェディング・キャンペーン』(2005年)の終盤のシーンも忘れられない。
畑仕事を終えた純情青年マンテク(チョン・ジェヨン)が、桜の木の下に腰を下ろし、大きな椀でマッコリをひと口飲む。「はあ~~っ」と思わず声が出る。左手で口元のマッコリを拭う。草の上で横になる。そして、マッコリをもうひと口。春の日差しの中でうつらうつらする
また、チョン・ドヨン主演映画『初恋のアルバム 人魚姫のいた島』(2006年)では、パク・ヘイル演じる島の郵便配達夫が、農作業をしていたおばさんたちに誘われ、やかんに入ったマッコリを注がれるシーンがあった。
手っ取り早く酔うための酒だったソジュ(韓国焼酎)と違い、マッコリにはゆったりとした時間と場所が似合う。韓国を訪れたら、ソウルや釜山の郊外のシュポでマッコリを買い、田んぼや畑の近くでゆっくり飲んでみてもらいたい。