城壁に沿った道はなかなか急だった。息が切れる。フェンスで囲まれた軍事施設を左手に見ながら、石段を一歩、一歩あがっていく。軍事施設があるところは岩山のピークのようなところだった。その脇につくられた坂を登り切ると、一気に視界が開けた。谷から吹きあげる風が汗を乾かしてくれる。
ここが仁王山の山頂だろうか。時計を見た。登りはじめてから40分ほどしか時間がたっていない。
岩を巻くように進むと、その先にさらに高い岩山が現れた。登山路が見え、そこを登る人の姿が見える。
「山頂はあそこか……」
道は急に険しくなった。岩を削った隘路になり、脇にとりつけられた手すりやロープを頼りに登っていく。登山客がすれ違うこともできなくなり、くだる人が岩の上で待ってくれたりする。ロープを握る手に力をこめ、ぐいッと体をもちあげていく。
そんな道が10分ほどつづいただろうか。再び城壁が現れ、しばらく登ると山頂に出た。
360度の眺望が開けた。山の間にマンションが林立している。その先にソウルの市街地が見える。
北岳山がいま、どんな状況になっているかはわからないが、少なくとも、そこに流れる空気の緊張は緩くなっているはずだ。平和というにはまだ長い道のりがある気がするが、少なくとも仁王山の上には南北の張り詰めた空気はなかった。兵士の姿はない。皆、眼下に広がるソウルをバックに写真を撮っている。気持ちのいい山頂だった。