アン・ソンギチェ・ミンシクも発した「オレを誰だと思ってんだ!」

 我らが国民俳優アン・ソンギが塗装工に扮した映画『チルスとマンス』(韓国映像資料院オールタイムベスト100の50位以内の名作)にも、こんなシーンがあった。

 ソウル玉水洞のポジャンマチャ(屋台の飲み屋)でひとりソジュをあおる塗装工。世の不条理に対する怒りを押し戻そうとするかのような飲み方だ。つまらぬことで向かいの客二人と睨み合いになり、塗装工は悪態をつく。

「ノイドゥル ネガ ヌグンジュル アラ!? パク・マンスだ!(おまえたちオレを誰だと思ってる。パク・マンスだ)」

 日本の人からすると、自尊心をここまであからさまにすることに違和感があるようだ。「秘すれば花」「口は災いのもと」の日本人と、「言葉は発してこそ」の韓国人の違いだろう。

 また、「好きな韓国映画俳優」(世論調査会社ギャラップ調べ)で人気第1位だったチェ・ミンシクの主演映画『悪いやつら』にも似たようなシーンがある。

 拘留された警察署で、年下の刑事の横柄な態度にキレた公務員くずれのヤクザ(チェ・ミンシク)が言う。

「おまえ、オレを誰だと思ってる? 昨日もここの署長とメシ食って、一緒にサウナも行って、何でもやったんだ!」

 このときヤクザの言ったことは事実だったらしく、刑事は平謝りだった。

 我が国の男性はこの20年くらいで総じておとなしくなった。1990年代の酒の席では、「オレを誰だと思ってる?」がたまに聞かれたが、最近は滅多に耳にしない。日本のみなさんが韓国でそんな場に居合わせないよう祈るが、もし直に聞くことができたら、ある意味ラッキーである。

ひと昔前の韓国ではポジャンマチャ(屋台の飲み屋)でのケンカ騒ぎにパトカーが駆けつけることも珍しくなかった ※写真はイメージです