歌と踊り好きが多い韓国には音楽のある飲食店は以前からあった。1970年代には「音楽鑑賞室(ウマクカンサンシル)」という業態が大ブームだった。当時は日本同様フォークがブームで、ライブの歌声と若い女性の嬌声が渦巻く熱い空間だった。その雰囲気は、チョンウ、ハン・ヒョジュ、カン・ハヌルらが出演した映画『セシボン』がよく伝えている。セシボンはソウル市庁舎の北側、武橋洞(ムギョドン)に実在した店だ。
また、音楽鑑賞室のバリエーションとして、粉食店(トッポッキなどの粉ものを出す軽食店)にDJブースを設置してレコードをかける店も若者に人気があった。1970年代後半の高校生の青春群像を描いた映画『マルチュク青春通り』では、主演のクォン・サンウとヒロイン役のハン・ガインがそんな店でトッポッキを食べるシーンがあった。最近はDJブースのある店がソウルに復活し、昔を懐かしむ中高年や目新しいものを好む若者を集めている。
■避難場所として、LPバーは適しているのか
古典的なゾンビ映画の主人公が籠城する巨大ショッピングモールは、隠れる場所が多く、水や食料を確保しやすいという点で大変合理的だが、『ニュートピア』のヒロイン一行が忍び込んだLPバーは、避難場所としてはじつに心もとない。
飲食店ではあるが、手の込んだ料理はないので、飽きてしまいそうだし、食材もすぐ尽きそうだ。ヒロイン一行もイチゴやチェリー、甘いパンなどをぼそぼそ食べていた。一行の一人は、「甘いものばっかりだな。ラーメンはないのか?」と文句を言う始末。スタイリッシュさが売りのLPバーにラーメンは似合わない。ミックスナッツがせいぜいだろう。酒はたくさんあるが、いつゾンビが襲ってくるかもしれない状況で酔っ払っている場合ではない。
しかし、このLPバーでは、たまたまヨンジュとジェユンの思い出の曲が入ったカセットテープが売られていた。非常時にも関わらず、それを1万ウォンで買うヨンジュ。このシーンは今後の展開の伏線に違いない。残り5話でどう回収されるのか要注目である。

●配信情報
『ニュートピア』Prime Videoにて独占配信中
[2025年/全8話]演出:ユン・ソンヒョン『狩りの時間』 脚本:ハン・ジンウォン『パラサイト 半地下の家族』、チ・ホジン『殺し屋たちの店』