3月19日の韓国公開を控え、『劇映画 孤独のグルメ』の井之頭五郎に扮する松重豊がソウルで熱心にプロモーションをやっているのを見て、「いろいろなことが一周したんだなあ」と思った。かつては温度差が大きかった韓国人と日本人の「食への情熱」に、大きな差がなくなったという実感である。

■「日本のテレビはなぜ食べ物ことばかり放送するの?」と思った1990年代後半

 筆者が日本に語学留学していた1990年代後半、テレビを見ていてよく思った。

「なぜ食べ歩きの番組ばっかりやっているのだろう?」

 その思いは、料理コンテストをドラマチックに演出した番組『料理の鉄人』(1993年~1999年)を観たときピークに達した。また、『劇映画 孤独のグルメ』に大きな影響を与えたといわれる映画『タンポポ』をDVDで観たときは、食べ物の話だけで映画が成立することに驚かされた。日常的なことを深く掘り下げる日本人の知的好奇心に敬服すると同時に、日本は平和だなあとつくづく思ったものだ。

 埼玉県の焼肉店でアルバイトしていたときは、筆者が韓国人だとわかると、お客さんが料理についてあれこれ聞いてくるので苦労した覚えがある。

 当時の韓国は、食べ物に関する放送といえば実用的な料理番組くらい。人々は食べることをおろそかにしなかったものの、目当ての店が満席だったら迷わず別の店に行ったし、飲食店の前で列を成す人を見ることなど稀だった。料理のうんちくを語る者などほとんどいなかったと記憶している。

日本の焼肉店で驚いたのは、サンチュやキムチが有料だったこと