地方都市、全州の路地裏食堂「ジョンジェ」を舞台としたNetflixドラマ『隠し味にはロマンス』は、店主のヨンジュに扮するコ・ミンシ、彼女のレシピを盗みに来たものの「ジョンジェ」で働くことになってしまうボムに扮するカン・ハヌルのドラマだ。そこにミョンスクに扮するキム・シンロク、チュンスンに扮するユ・スビンがからむ。

 正統派のラブロマンスなのだが、地方が主舞台だったこともあってギスギス感の少ない、安心して視聴できる良作である。今回はその立役者である脇役を含めた俳優たちの魅力に触れてみる。(以下、一部ネタバレを含みます)

■Netflix『隠し味にはロマンス』を良作に導いた俳優たち

●小顔美男とは一線を画す魅力を放つカン・ハヌル

 チョン・ヘインパク・ボゴムパク・ヒョンシクイム・シワンらに象徴されるすっきり系小顔美男俳優が活躍するなか、ボムを演じたカン・ハヌルはやや骨太で顔も小さいとは言えないところが、ひと昔前の男優をほうふつとさせ、男性からの好感も得やすいようだ。

 これまで好青年を演じることの多かった彼だが、本作では札びらで人の頬を叩くこともいとわない大企業の御曹司を演じた。ソウルから都落ちして、ヨンジュ(コ・ミンシ)と知り合い、苦労をともにすることで、ドラマ終盤には全州の人々からも認められたように、サラムネムセ(人の匂い=人間味)を回復していく様子が見ものだった。

 カン・ハヌルは多くの俳優を輩出している名門の中央大学校演劇学科出身で、その演技力は高く評価されている。6月27日に配信スタートする『イカゲーム』シーズン3にも、シーズン2に続き出演しており、また違った魅力が楽しめそうだ。

●芯の強い女性を好演したコ・ミンシ

 映画『密輸 1970』でのヤンキー上がりっぽい喫茶店ママ役や『The Witch 魔女』での天真爛漫な女子高校生役とは違った、庶民的だがノーブルな女性を演じている。ふだんは寡黙だが、ときおり感情を爆発させる演技で、新境地を開拓したかっこうだ。

『隠し味にはロマンス』でヨンジュが切り盛りする食堂「ジョンジェ」は、全州の観光拠点、韓屋マウルの路地裏にあるという設定
『隠し味にはロマンス』でコ・ミンシ扮するヨンジュの食材仕入れ先、全州南部市場

●全州訛りは本物!? ローカル色を添えるキム・シンロク

 全州のコンナムルクッパ屋から「ジョンジェ」に移ってきたミョンスクに扮したキム・ンシロクは、全羅道訛り(光州出身)でドラマに濃厚なローカル色を添えてくれた。

 ただし、彼女の言葉は全州(全羅道の北部)の人には、全羅道の南部訛りにしか聞こえないそうだ。コ・ミンシ(太田出身)が演じたヨンジュの訛りも同様だという。キム・シンロクがコ・ミンシに方言指導をしたとしたら、それも無理からぬことだろう。

「全羅道北部の訛りは南部と比べて平板でインパクトに欠けるので、ローカリティを強調するため敢えて南部の言葉にしているのかも」と言う北部出身者もいた。いずれにせよ筆者のようなソウルの人間には、その違いはわからないのだが。

 キム・シンロクの演技を見ていて思い出したのは、映画『チャンシルさんには福が多いね』のチャンシルやドラマ『おつかれさま』2話で強欲な旅館女将を演じたカン・マルグムだ。二人とも年齢が近く、表現力の豊かさには定評がある。

 今後のドラマや映画のコミカルな二枚目半といった役柄のキャスティングでは、慶尚道訛りならカン・マルグム(釜山出身)、全羅道訛りならキム・ンシロクに白羽の矢が立ちそうだ。

レンタル韓服を着た若者が闊歩する全州韓屋マウル
『隠し味にはロマンス』のファンなら一度は泊まりたい全州の伝統旅館