韓国ドラマを見ていると、「それはないわ」と、思わずツッコミたくなるシーンがある。目が覚めたら財閥の御曹司になっていたとか、余命宣告された主人公が最終回で奇跡的に助かるとか、あり得ないことだらけだ。でも、その「あり得なさ」の中に、私たちが心のどこかで求めている希望や理想が隠されているのではないか。

 研修医たちの成長を描いたNetflix配信作『いつかは賢いレジデント生活』を見ていて、ふと、そんなことを思った。

■『いつかは賢いレジデント生活』は「多くの人が望む世界」を表現したドラマ

 本作にクリエイターとして参加した名物プロデューサーシン・ウォンホ氏は、制作発表の場でこんなことを語っている。

「僕らの作品をファンタジーと呼ぶ人もいますが、僕らは多くの人が望んでいる世界を描きたい、その一心で制作に取り組んでいます」

 これは、ドラマと現実社会が乖離しているのでは、との記者からの質問を受けての回答だ。

 昨年、韓国の医療現場では、約1万人にもおよぶレジデントが一斉に職場を去るという事態が起きた。当時の政府が打ち出した医学部定員増大計画に反意を示したのだ。その後、計画は見直され、レジデントは医療現場に戻りつつあるが、混乱は今も続いている。実際の病院ではレジデントが不在なのに、ドラマの中では奮闘している。その光景は、確かに「ファンタジー」と言えるのかもしれない。

■無名の俳優がスターに!「あり得ない」を生み出すウォンホ・マジック

 シンPDが関わる作品では「あり得ない」ことが次々と起こる。それは劇中にとどまらず、出演している俳優たちにまで及ぶ。というのも、1話放映時には無名だった俳優が、最終話が放映される頃にはスターになっているのだ。こうしたことが毎回起こるため、韓国エンタメ界では「ウォンホ・マジック」と呼ばれている。

 例えば、2012年のドラマ『応答せよ1997』では、オーディション番組出身歌手だったソ・イングクと、アイドルグループApinkのチョン・ウンジを主役に抜てき。当時、演技経験が乏しかった二人を、誰もが共感する1997年当時の高校生に仕立て上げ、俳優としての道を切り拓いた。

 続いて2013年に制作された『応答せよ1994』では、すでにキャリアはあったものの、ブレイクには至っていなかったチョンウを、一気に人気俳優にした。また、ユ・ヨンソクソン・ホジュンも、この作品でその名が広く知れわたった。

 そして、シリーズ最高傑作として知られる『恋のスケッチ〜応答せよ1988〜』では多くのスターを誕生させた。当時、無名に近かったパク・ボゴムリュ・ジュンヨルイ・ドンフィコ・ギョンピョをスターダムへと押し上げ、さらには、キム・ソニョンラ・ミランユ・ジェミョンといった、演技歴は長いが、知る人ぞ知る存在だったベテラン俳優たちをも一躍有名にした。

 こうした手腕は、『いつかは賢いレジデント生活』でも発揮されている。とりわけ本作で注目を浴びたのは、レジデント4年目のク・ドウォン役を演じたチョン・ジュンウォンだ。

 チョン・ジュンウォンはデビューして今年で丸10年。これまで、映画『金子文子と朴烈』や『毒戦 BELIEVER』といった興行的に成功を収めた作品に出演したり、チョン・ユミIUの相手役に抜てきされたりしてきた。にもかかわらず、スポットライトを浴びたことは一度もなかった。しかし、今回ク・ドウォン役でついに大ブレイクを果たしたのだ。