韓国現代史が描かれた韓国ドラマの傑作としてもう1つ挙げるとすれば、ぜひ『五月の青春』(2021年)を取り上げたい。
1980年5月に起こった光州(クァンジュ)事件を題材にするだけに、生半可な気持ちで見られないと思っていた。緊張しながら見始めたら、一気に引き込まれた。
2021年に光州の工事現場で白骨と遺留品の懐中時計が発見された。そのニュースを見た中年男性の後ろ姿から、時が1980年5月に戻っていく……こういう序盤から本編では、医者の卵であったファン・ヒテ(イ・ドヒョン)と光州の病院に勤務していた看護士キム・ミョンヒ(コ・ミンシ)の短く激烈なラブロマンスが綴られる。
他の登場人物は、ミョンヒの親友イ・スリョン(クム・セロク)、スリョンの兄で秘かにミョンヒを愛しているイ・スチャン(イ・サンイ)、ヒテの父親で学生運動家を非道に弾圧するファン・ギナム(オ・マンソク)となっていた。特に、多くのドラマで悪役として凄味を見せるオ・マンソクの存在感が本当に不気味だった。
そして、ドラマタイトルもとてもいい。5月は青春の薫風がそよぐ最高の季節であり、古い価値観を一掃する闘争の季節でもある。その渦中で、ヒテとミョンヒは抑圧された立場に抗いながら、めぐりあった一世一代の恋に邁進する。しかし、光州を破壊しようとする軍人たちの暴挙によって、純粋な2人の精神が圧砕されようとしてしまう。その一部始終をドラマは憤怒と人間愛で描く。
もしも「韓国のことがよくわかるドラマが見たい」と願う人がいたら、真っ先に勧めたい傑作が『五月の青春』だ。韓国の現代史は光州事件を抜きにしては語れない。それゆえ、『五月の青春』を見る意味がとても深くなるのである。

●作品情報
『五月の青春』
[2021年/全12話]演出:ソン・ミニョプ 脚本:イ・ガン
出演:イ・ドヒョン、コ・ミンシ、イ・サンイ、クム・セロク、オ・マンソク
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