■人気ドラマ『おつかれさま』にも登場した、懐かしい深夜の餅売り

「♪チャプサ~ルト~ッ メミ~ルム~ッ」

 ソン・シギョンが思い出していたように、深夜の餅売りの唄うような口上は1990年代頃までソウルの住宅街でも聞くことができた。絶滅したのか、絶滅寸前なのかわからないが、その背景には24時間営業のコンビニの普及や配達(ペダル=出前)文化の発達があるだろう。

 大ヒットドラマ『おつかれさま』の14話には、クムミョン(IU)の弟ウンミョン(カン・ユソク)が留置所から出たあと、どこにも雇ってもらえず、やむなく深夜に餅を売り歩くシーンがあった。

 また、ホン・サンス監督の初期作品『女は男の未来だ』では、ヒロイン(ソン・ヒョナ)宅で泥酔した大学講師(ユ・ジテ)と映画監督(キム・テウ)の愚にもつかない会話の合間に、餅売りの呼び声が入っている。声の主は、Netflix『イカゲーム』の船長役や映画『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』の警監役が印象深いベテラン俳優、オ・ダルスだ。

 ソウルの仁寺洞には前述したようなおしゃれな韓菓の店だけでなく、昔ながらの餅屋もわずかながら残っている。そんな店のルーツをたどると、朝鮮王朝崩壊後、市井に戻った女官が始めた店だったりする。

 つまり、イ・ヨンエが『宮廷女官チャングムの誓い』で演じたチャングムのような女性である。この辺りを散策するときは、ぜひ立ち寄ってもらいたい。

地方の市場の餅屋

●配信情報

Netflix『隣の国のグルメイト』独占配信中(毎週木曜日配信)

[2025年/全30話]出演:松重豊、ソン・シギョン