王室の料理を担当する水刺間(スラッカン)の最高責任者となったヨン・ジヨン(イム・ユナ/少女時代)。彼女は明国使節団の料理人と国の威信をかけて料理対決をすることになった。ジヨンの料理に惚れ込んでいる国王イ・ホン(イ・チェミン)は彼女の手腕に大いに期待していたのだが……。(以下、一部ネタバレを含みます)
■Netflix『暴君のシェフ』料理対決で名前が出てくるチャン・ヨンシルとは?
ジヨンが料理対決の切り札にしたいと思ったのが圧力鍋だ。これがあれば明国の料理人にも絶対に勝てると自信を持っていた。しかし、16世紀序盤の朝鮮王朝に圧力鍋があるわけがない。
ジヨンはイ・ホンに直談判した。絶対に圧力鍋を作ってほしい、と。
その時にジヨンが名前を出したのがチャン・ヨンシル(蔣英実)だった。現代の韓国でも、チャン・ヨンシルが朝鮮王朝時代の偉大な発明家であったことはあまりにも有名だ。それで、ジヨンもチャン・ヨンシルの名前を出したのだが、イ・ホンが在位していた16世紀序盤にはすでに亡くなっていた。その代わりに名前が挙がったのがチャン・チュンセン(コ・チャンソク)だった。
彼はチャン・ヨンシルの子孫という設定になっている。ドラマでも突出した発明家なのだが、山奥にこもって正体がわからない生活をしていた。それでもジヨンは訪ねていこうと思い、イ・ホンに遠出の許可を願い出た。
朝鮮王朝としても威信がかかっているのでイ・ホンは遠出を許したが、心配になった彼は一緒にジヨンに同行することになった。会ってみるとチャン・チュンセンはとてつもない変わり者。何度も拒絶されたが、ジヨンが作ったパジョン(チヂミ)が功を奏して、チャン・チュンセンからようやく圧力鍋を作ってもらうことができた。それが第7話のエピソードであった。
こういう場面で何度も名前が出てきたチャン・ヨンシル。果たしてどういう人物だったのだろうか。
彼の父親は高麗王朝の官僚であったが、1392年に高麗王朝が滅亡して朝鮮王朝が建国されてから運命が変わった。高麗王朝に関係する者たちが迫害を受けた時にチャン・ヨンシルの一家も奴婢に身分を落とされた。チャン・ヨンシルは東萊(トンネ/現在は釜山市になっている)の官奴(国が抱える奴婢)にされていたが、天才的な発明家だった彼の名声は4代王・世宗(セジョン)の耳に入るようになった。
世宗は1423年にチャン・ヨンシルを都に呼び寄せて高い身分を与えようとした。官僚たちは猛反対。けれど、反対を押し切って彼に高い官位を与えて思う存分に働けるようにした。
チャン・ヨンシルは噂通りの天才で、彼が作った発明品が当時の人々の生活にどれほど役立ったことか。日時計によって時間を正確に測定することができるようになり、さらに水時計によって日が差さない夜間でも時間がわかるようになった。画期的だった日時計や水時計だけでなく金属活字の鋳造にも積極的に関わり、朝鮮王朝時代の活版印刷技術を飛躍的に向上させている。