この十数年はソウルの飲食店の多様化のスピードが速過ぎて、とても追いきれない。Netflix配信『隣の国のグルメイト』シーズン4の5話に登場した高級韓食レストランもそうだった。

 松重豊を案内したソン・シギョンが選んだのは、宮廷料理シンソンロと最上級ロースのプルコギ、そして北側由来の繊細な手打ちそば(冷麺)だった。昔ながらの形式にこだわらず、美味しくするためにできることを最大限にするというこの店の姿勢はなかなか興味深かった。

■宮廷式寄せ鍋、シンソンロ

 日本から韓国に来る旅行者を案内するとき、宮廷料理が食べてみたいというリクエストに応えることはあるが、「チョンさん(筆者)にまかせます」と言われたとき、宮廷料理を選ぶことはまずない。なぜか? 誤解を恐れずに言えば、コスパがよくないから。つまり、値段が高いわりに満足度がもうひとつだからだ。

 宮廷料理や韓定食は見た目の美しさや品数の多さにばかり目が向きがちで、肝心の味に対する追求は二の次になっていたような気がする。そもそも品数が多いということは、何を食べているのかわからなくなりやすい。印象が残りにくい。日本には出されるものを律儀に残さず食べようとする人が多いのでなおさらだ。

 シンソンロも宮廷料理のアイコンくらいに思っていた。「お好み焼きみたいなものを宮廷料理の鍋に入れちゃうの?」という松重豊の反応がそうだったように、宮廷料理はそれでなくても品数が多いのに、ちゃんこ料理のように何でもぶちこむような鍋が出てくることに戸惑う日本の人も多いのだ。

 しかし、『隣の国のグルメイト』に登場した「ソリョン」という店のシンソンロは形式より味にこだわっているようで、食べてみたくなった。本来の料理名「悦口子湯(ヨルクジャタン)」を追求している気がしたのだ。

左が韓国の宮廷料理の店でよく出るタイプのシンソンロ

■鍋で牛肉を煮焼きするプルコギ

 プルコギという料理名で思い出すのは、2000年前後に韓国に遊びに来た日本の人たちの言葉。「韓国の焼肉って日本の焼肉店で出てくるものと違って、すき焼きみたいですね」である。

 プル(火で焼く)コギ(肉)という言葉から、日本の焼肉店のようにカルビなどを焼いて食べるのか思ったら、浅い鍋が出てきて「あれっ?」と思ったというわけだ。

 鍋で牛肉を煮焼きするタイプのプルコギが認知されてからは、日本の人からプルコギをリクエストされる機会は減った気がする。しかし、「ソリョン」のような高級店の最上級ロースでなくても、甘めに味付けされたプルコギはほのかな苦みのあるサンチュと相性がよいので、日本の人にもたまには食べてみてほしい。

 ちなみに、番組でソン・シギョンが三大プルコギと紹介していたように、韓国のプルコギにはソウル式、彦陽式(蔚山広域市)、光陽式(全羅南道)と呼ばれるスタイルがあり、それぞれ調理法や味付けに違いがある。

ソン・シギョンがソウル式、彦陽式と並ぶ三大プルコギのひとつと言った光陽式プルコギ